2市2村財政の現状から合併問題を考える

はじめに

 現在、印西市・白井市・印旛村・本埜村による合併協議が進行中であり、これと並行して、議会や住民レベルでもホットな議論が展開されている。

 本紙では、そうした議論に一石を投じるべく、会計学が専門の大西道孝氏(大学教師、白井市清水口在住)と本紙編集長・武藤弘との共同作業により、2市2村の平成14年度決算報告書に基づく財政構造の全般的な分析を行った。

 言うまでもなく地方自治体は、地域住民の高度化・多様化したニーズに対応する行政サービスの提供と、そのための住民負担を低く、という民意実現化の使命を負っている。そうした充実した行政サービスを実現するためには、財政基盤が確立していなければならない。

 市町村合併論議の核心部分は、地方自治体の財政事情にあり、合併協議会や各市村などでも財政シミュレーションを行っているが、ここでは、2市2村の財政の現状をみることで、財政構造の問題点、今後の行政サービス需要に十分対応していくために何が必要かといったことを考えていくためのヒントとする。

 作業では、大西氏が作成した分析指標をもとに、数回にわたる議論、レクチャーを経て、武藤が会計学の専門的な知識がない人でも理解できることに意を置いて文章化した。

 分析では、一般会計および特別会計の主な項目をみているので、引用する表番号を一般会計については「1−○○」とし、特別会計については「2−○○」とした。また、分析に使った各市村の人口については、平成15年3月31日現在の住民基本台帳から、次の人口とした。

   印西市   60,560人
   白井市   51,529人
   印旛村   11,847人
   本埜村    8,283人
   合 計   132,219人

1.慢性的な赤字構造

1−1 収支バランスの崩れ、財政硬直化

 表1―1は、2市2村の一般会計での実質的収入額と総支出額との差(収入不足額)をみたものである。

 市村の収入としては、税収や交付税などのほか、収入不足を賄うために基金からの繰入や市村債発行による収入などが含まれる。ここでは、基金繰入や市村債収入を除いた額(実質的収入額)と総支出とを比較することで、各市村の実質的な収支バランスを算出したものである。

 2市2村の収支の構造として、次のような2市2村に共通した財政の「かたち」がみえてくる。

慢性的な赤字財政(恒常的な収入不足の発生)

財政の硬直化(収入不足を補填するために市村債を発行し、それが恒常化することで借金体質の固定化)

補填の恒常化(収入不足額を上回る額が補填され、不足額を賄った残りが次年度繰り越しに回される)

 また、市部と村部を比較すると、とくに村部に次のような傾向が顕著にみられる。

総収入額に占める実質的収入額の割合が小さい。

住民一人当たりの総支出額が大きい。

一人当たり実質的収入額と一人当たり総支出額の差が大きい
→収入不足額は、絶対額、住民一人当たりの金額、実質的収入額に対する割合とも、市部を大幅に上回る。

実質的収入額が総収入額に占める比率をみると、実質的収入の割合が低い(基金繰入、市村債収入の割合が高い)。

 これらの傾向から、一定の「規模のメリット」原理が働いていることは明らかであり、村部としては今後強力な自主財源でももたないと、単独ではこうした財政構造から抜け出すことはむずかしいとみられる。

1−2 放置できない収入未済額

 表1−2は、各収入項目ごとの未済額である。市村税の滞納等によるものが大半を占めるとみられるが、「税の公平負担」の原則から、また在世畏怖健全化要因にもなりかねないこと、さらには財源確保の観点からも、未済額の解消が必要である。

1−3 交付税等への依存度

 表1−3は、地方特別交付金、地方交付税が総収入に占める割合である。

 これをみると、印西市5%、白井市13%、印旛村29%、本埜村30%といった水準であり、財政力指数が「1」に近づいている印西市を除くと、他はみな2桁%台に及び、村部ほど交付金、交付税に依存する割合が高くなる。

 小規模自治体に対する交付税等の優遇措置が見直される今後、交付税等依存度の高い市町村が単独でこれまでどおりの行政サービスを維持していける余地は極めて小さいことが、決算数字からもうかがわれる。

 地域ごとの創意工夫、地域特性に適した人口増加策、産業の育成・誘致など地域の活性化による独自財源確保が、各自治体生き残りの最大の課題となろう。

1−4 財政調整余力

 表1−4は、拘束性基金(国民健康保険事業基金、介護保険事業基金、学校給食施設基金、減債基金)を除いた基金の現在高である。これと、次項(投資・出資金等)が、市町村が何かあった時に一応財源として利用できる「資産」ということになる。

 表1−4に示された基金現在高に減債基金現在高(表1−9)を加えたものと、債務現在高(表1−8)とを比較してみると、次のようになる。

 ◇印西市   6,699,054千円/37,188,003千円=18.0%
 ◇白井市   6,333,229千円/23,148,433千円=27.4%
 ◇印旛村   1,699,669千円/12,628,096千円=13.5%
 ◇本埜村    968,476千円/ 8,019,920千円=12.1%

上記の比率が、基金残高が債務残高をカバーしている割合ということになる。市部、村部とも、将来の財政運営からみて合理的な基金額とはいえないであろう。

 表1−5は、基金残高と並ぶ、もう一つの「資産」である投資・出資・出損金の残高である。「株式」については、時価が不明なので、投資時点での出資金額で表している。

 全体としていえることは、「資産」といっても、現実には現金化は難しいものがほとんどであり、実質的には「塩漬け」状態の資産といえる。例えば、白井市がブランデー会社に出資(総株数の89.9%―平成15年3月末現在)しているケースのように、資金引き上げは、事実上できないものがほとんどとみられる。


2.財政硬直化を招いている2つの要因

2−1 固定的経費

 このような収入不足が構造的なものであり、各自治体の財政が硬直化していることを示す指標として、本項(人件費等)および次項(特別会計への繰入)で、固定的(経常的)支出の状況をみる。

 表1−6は、主要性質別支出額(人件費、負担金・補助金・交付金、市村債償還額)である。

 これらの支出項目は、家計でいえば住宅ローン、マンションの管理費、保険料などにあたり、一家の可処分所得(自由に使えるお金)は、こうした固定的な支出を除いた残りということになる。自治体の場合も同様であり、これらの固定的支出の膨らみは、投資的事業の余地を狭め、各自治体が住民ニーズに対応して行政サービスの拡充を図ろうとしても、財政面からその可能性を奪ってしまう硬直性を意味する。

 これらの支出額に特別会計繰入額を加算した額が総支出額に占める比率をみると、以下のように相当な高率となり、財政の硬直化が進んでいることがうかがわれる。

   ・印西市   58.3%
   ・白井市   68.9%
   ・印旛村   55.1%
   ・本埜村   55.8%

2−2 足を引っ張る特別会計

 財政硬直化を招いている、もう一つの構造的な要因は、特別会計である。

 表1−7は、一般会計から特別会計への繰入額である。

 下水道事業、老人保険、国民健康保険、学校給食、介護保険の各特別会計は、独立採算の建前にもかかわらず、ほとんどが赤字であり、その収支不足分を一般会計から繰り入れることで、帳尻を合わせている。この一般会計からの繰入額が総支出額に占める比率は、表のようであり、これも構造的な赤字として、市村財政の硬直性を高める一因となっている。

 特別会計の収支建て直しは、受益者の負担をこれ以上増やすわけにいかないとすれば、「規模のメリット」による採算性の向上を図ることが、最も効果的な方法と思われ、合併は、この点でかなり有効な解決策となる可能性がある。


3.高水準の市村債償還が財政を圧迫

 表1−8は、2市2村の債務(市村債および債務負担行為支出予定額)の現状である。

 これらの債務現在高を各市村の実質的収入額(表1−1参照)と比較すると、次のようになる。

 印西市の債務現在高は、実質的収入額の  約2倍
 白井市     〃         〃       約1.6倍
 印旛村     〃         〃       約2.8倍
 本埜村     〃         〃       約2.3倍

 こうした債務の現状に対して、その償還に当てられる資金は、表1−9に示されているように、巨額の債務の前にはまさに「雀の涙」「焼け石に水」という表現がぴったりの状況にある。結局、債務の償還には、一般会計から拠出するしかないことになり、すでに各市村の財政に大きな負担となっており、今後も市村債費の支出増加は、財政への一層の重圧となっていくことが予想される。

 現に、表1−10にみられるように、平成15および16年度の市村債償還額をみると、白井市が15年度43億円を償還、印西市も16年度40億円を償還に回すなど、極めて大きな支出項目となっている。白井市の15年度の償還額は前年度比102%という水準であり、年度によって大きな波があることも、今後の市村財政での大きな波乱要因となっていることがうかがわれる。

 表1−10では、本埜村は15、16年度とも償還額が減少しているが、これが一時的な現象にすぎず、長期的には他の市村と同様の重圧を受けるであろうことは、表1−1および表1−8から推測することができる。

 また、ニュータウン事業に関係する債務負担が、今後の各市村の一般会計に甚大な影響を与えることになるであろう。

 決算書では明らかでないが、各債務ごとの償還期限をみていけば、各市村の償還スケジュールを特定できることになる。おそらく、そう遠くない将来、相当厳しい償還のピークが巡ってくることが想定される。


4.行財政改革と税収増

4−1 疑問視される議員の在任特例

 さまざまな不確定要因を含んだまま行われる財政シミュレーションを待つまでもなく、決算書に現れた実績数字だけみても、2市2村にとって財政の健全化のための行財政改革、住環境整備や産業振興等(ニュータウン事業の推進を含めた)による税収増対策が待ったなしの状況にあることは明らかだろう。

 市村合併も、こうした文脈の中で検討される必要がある。

 行財政改革による支出抑制では、基礎的な行政コスト(議員、特別職の人数、職員の効率的配置等)は、合併効果が最も現れやすい領域であり、しばしば合併の主要な目的の一つにあげられる。

 先ごろ合併協議会で決まった特例措置(現在の2市2村の議員が、合併後1年5ヶ月にわたって新市の議員として在任する)なども、財政面から改めて検討を加える必要があるのではないか。現在の2市2村議員76名の議員報酬は総額2億6173万円、これが合併によって30名に縮小され、現在の印西市の報酬水準に基づくと1億2372万円となり、その差1億3791万円が浮く計算になる(表1−11)。

 合併後1年5ヶ月にわたって現状の議員定数のままでいくという特例措置が実施されると、137,916千円×(1+5/12)=195,381千円で、合併後現在の議員が議席を失い、新しい定数で選挙された場合に比べて、約2億円の支出増となる。

 「打ち出の小槌」を持たない一般の市町村にとって、まずはこうした金額を少しずつ積み上げることで、支出抑制を図っていくしかない。支出抑制は、一般住民に対してもなにがしかの「痛み」や「我慢」を求めることになるのだから、「隗より始めよ」の精神が大事だろう。一般住民にとっては、首長や議員が合併について何を語るかとともに、彼らが日頃からどう行動しているか、してきたかということも併せて、判断材料になっていることを忘れるべきではない。

4−2 強化された組織で積極的なまちづくり、産業振興を

 収入増の方でいえば、合併とともに大胆な職制の見直し(企画や政策立案部門の強化)を行い、千葉ニュータウン事業と連動したまちづくりや産業振興機能の大幅な強化を図る必要があろう。「出るを制する」とともに、「入るを図る」行財政改革を積極的に展開する必要がある。

 2市2村は、東西約20kmという地域的な広がりをもち、さまざまな地域的一体性をもつ一方で、地域ごとの性格や特性といった点では極めて多様性に富んでいる。とくに、ニュータウン事業での開発がほぼ一段落している白井、これからの開発余地の大きい本埜や印旛、広大な未利用地を抱える印西というように、地域特性を適切に組み合わせることで、2市2村地域全体としての発展可能性、さまざまな地域課題の解決への可能性は非常に大きく、全国的な地域の現状からみて、極めて恵まれた条件を活用できることになる。

4−3 特別会計の現状

 特別会計の現状については、各特別会計の基本的な収支バランスを掲げる(表2−1〜表2−8)。

 表2−1に、各特別会計の総括表を示す。

 これによると、まず実質的収入額が総収入額に占める割合は、各市村とも75%前後にとどまり、一般会計からの繰入や市村債収入に大きく依存している。

 また、収入不足額は、各市村とも実質的収入額を12〜14%程度上回っている。

 とくに、市部においては収入不足額が一般会計における収入不足額を上回っており、特別会計での収支バランスの崩れが、財政全体の足を引っ張る要因になっていることをうかがわせる。


エピローグ

病気は治さなければならない

 地方財政の現状を人間の身体にたとえれば、長い「飽食の時代」にすっかり肥満体となり、重い生活習慣病にかかった状態ではないか。『まず手術(合併)をして現在の危機的な病状を脱し、退院後はこれまでの生活習慣を改め、徹底的なダイエット(行財政改革)に励む必要がある』との治療方針が、かかりつけの医師から提示された事態を想像してみよう。

 手術は痛いし、副作用もあるかもしれない。しかし、いずれにしても病気は治さなければならないのである。

 手術に反対する医師(リーダー)もいるかもしれないが、そうであれば手術に代わる有効な治療法を提案するのでなければ無責任である。患者に手術を勧める医師も、より詳細に手術の中身、実施手順を検討し、それを患者にわかりやすく説明する義務がある。

 手術をするにせよ、避けるにせよ、患者が治療方針を完全に理解し、医師の知見や経験、誠実さを信頼し、医師と患者が一体となって病気に立ち向かうのでなければ、どのような治療法も成功はおぼつかない。

 「合併の是非」「住民の意向」ばかりが焦点になっている感があるが、本当に議論すべきは、そういうことではないか。医師がおざなりな説明を行っただけで、患者の形式的な合意をとった上で、治療を行い、失敗した時「患者も納得した」ことが言い訳に使われるとしたら、患者(地域住民)にとってこれ以上の不幸はない。

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