北総線
 
 高額運賃の研究
 
 
 
  (月刊 千葉ニュータウン2006年9月9日号〜2009年12月12日号掲載)

  利用者が支払う高額運賃(受益者負担)だけで支えられてきた北総線 
  奇妙キテレツな「二重運賃」論議/重けりゃ重いなりに負担は平等に 
  高額運賃の構造 
  営業運転30%超のスリム経営/インサイド・ステークホルダーがすべてを牛耳る/中枢で生まれた矛盾を末端へツケまわす 
  歴史の中の北総線 
  成田アクセスの露払いとしての北総線/分不相応の高規格鉄道 
  他山の捨て石 
  「北総の轍」を免れたつくばEX/すべての矛盾を受益者に押しつけるのが「北総流」 
  上下分離でコスト負担の透明性を図れ 
  平等なコスト負担とするために/問われる高額運賃の”根拠”/アウトサイダーの一分 
誰がための通学定期補助 
  通学定期を公的に補助することの正当性/新生・印旛高校支援との整合性は? 
千葉ニュータウン鉄道(旧公団線)にみる不透明な関係(上) 
  賃貸がトクか、分譲がトクか、みたいな話/生かさず殺さず 
線路使用料の透明性 
  スジの通った線路使用料の設定を/既成事実化される前に地元の声を/北総鉄道の経営陣にエールを贈ろう! 
ビジネスプランの甘すぎる想定 
  砂上のシナリオ/企業エゴ、官僚エゴ・保身エゴを許すな 
 10 圧力なき対話では、展望を拓けない 
  あわれホクソーくん、一人負け/おマエのものはオレのもの オレのものはオレのもの/野暮で不作法な飛び入り客/対話と圧力(問題解決へのロードマップ)/タダより高いものはない <付>株主代表訴訟/株主の差止請求 
 11 千葉ニュータウン鉄道(旧公団線)にみる不透明な関係(下) 
  マジック トリック ムシリック/京成・北総間の”不平等条約”/引き継がれたリスク/2期線区間にこそCNRルールの適用を/京成も北総も「応分の負担」を 
 12 2つの反省 2つの実行 
  公的支援をやるならストック部分へ/負担軽減分は運賃値下げに 
 13 北総線は誰のものか 
  償還ペースの緩和も視野に/地域の発展は運賃値下げに 
14 線路敷設費負担についての公正さを 
  成田新高速は北総2期線建設費を適正に負担すべし/「県民益」を守れ/県知事候補たちの認識を聞く 
 15 大詰めを迎えた運賃問題 
  小手先細工ではダメ 
 16 スジ違いの5%値下げプラン
  「子供の使い」させられた知事・首長たち/県の調整案への疑問/なぜ北総の運賃値下げを京成に要望するのか/やはり「株主代表訴訟」やるっきゃない? 
17 北総運賃 こうすれば下がる こうしなければ下がらない 
  北総線問題解決5ヶ年計画/株主代表訴訟の現実性 

[1]利用者が支払う高額運賃(受益者負担)だけで支えられてきた北総線

(月刊千葉ニュータウン2006年9年9日付所載)

なぜ北総運賃は下がらないのか

 北総線の高額運賃を是正すべく、この間北総鉄道をはじめとする関係機関などに陳情、働きかけを行ってきた行政関係者、議員、住民団体などの努力には敬意を払うが、一方でこうした陳情や働きかけだけでは、北総鉄道の運賃問題は解決しそうもないことが次第にはっきりしてきたのが、残念ながらこの間の偽らざる経緯、実態だったといえるのではないか。なぜ、地元の切なる要望、働きかけにもかかわらず、この異常ともいうべき高額運賃は下がらないのか。現状の何が、運賃是正を阻んでいるのか。何をどう変えたら、運賃は是正されるのか、あるいはその可能性が見えてくるのだろうか。

 これから、少し長期的にいろいろな専門家、関係機関を取材して、もう一度「一」からこの問題をおさらいし、考えていく。成田新高速開通を間近に控えた今は、北総線の運賃問題をとらえ直し、抜本的な解決法を検討する、ラストチャンスだと思われるし、何よりも成田新高速が北総鉄道の線路の上を走るという事態こそ、北総線の高額運賃とそれをもたらしている根本的な要因にもスポットライトを浴びせているように思われる。

奇妙キテレツな「二重運賃」論議

 平成13年3月にまとめられた「成田高速鉄道事業化推進に関する調査報告書」では、収支見通しのための前提として京成上野〜成田空港間の運賃1000円が設定されている。これを基準にすると、成田空港よりも20km以上手前にある印旛日医大までの運賃(1070円)の方が上回ってしまう。

 この逆転現象、いわゆる「二重運賃」問題について、成田新高速開通後は何らかの調整が行われて、結果として北総線の運賃が下がるだろうという期待が広がる一方で、公式的には成田新高速および京成特急と北総線はあくまで別のものという説明が一般に流されており、今のところ調整の可能性を示唆するような発言は公式筋からは一切聞かれない。

 しかし、そもそもこれは「調整」の問題なのだろうか。

 京成電鉄が運行する成田新高速も、北総鉄道が運行する、いわゆる北総線も、同じ線路の上を走る。そして、この北総線の特に二期線なる線路の敷設費用から生まれた、北総鉄道鰍ェ鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)などに負っている巨額の負債ゆえに、北総線の運賃が高く、しかも運賃値下げのメドが立たないとして、利用者にはずっと「今しばらくの辛抱」が求められてきた。

 成田新高速が開通した後は、北総線の線路は北総鉄道(およびその利用者)だけのものではなく、成田空港までスカイライナーなどを走らせる京成電鉄(およびその利用者)と共同で使用する線路となる。今まで高額運賃は巨額の経費で敷設された線路を使用する者が払うべき当然のコストだと「受益者負担」の原則を押し付けられてきた、この地域の住民からすれば、スカイライナーで成田空港に行く海外旅行者や京成電鉄にも、北総線の利用者と全く同等の「受益者負担」の原則が適用されて然るべきという結論しか考えられない。

 「二重運賃」は、「調整」などでは片づけられない(片づけてはいけない)、もっと抜本的な問題なのではないか。

重けりゃ重いなりに負担は平等に

 果たして、成田新高速で想定されている上野〜成田空港間1000円という運賃は、これまでずーっと北総線の利用者に押し付けられてきたのと同じ「受益者負担」の原則がきちんと折り込まれた上での料金なのか。

 北総鉄道が鉄道・運輸機構などに負っている巨額負債を返済していくために必要な資金は、この線路の上を通るすべての鉄道、利用者、受益者が均等に負担すべきではないか。少なくとも、北総鉄道の負債が軽減され、高額運賃の是正を北総鉄道が沿線住民に約束できる日が来るまでは。

 それでないと、北総線沿線の住民に対して、これまで運賃値下げができない理由として説明されてきたことがウソになってしまうのではないか。北総鉄道が鉄道・運輸機構などへの巨額の負債にあえいでいて、だから運賃値下げができないというのであれば、北総鉄道は巨額負債返済の原資を北総線沿線住民からだけでなく、成田空港から海外に飛び立つ旅行者およびその運搬鉄道会社からも、平等に∞厳しく£・収すべきである。

 そんなことをしたら、京成電鉄が成田新高速計画から手を引いてしまうと心配する向きもあるかもしれないが、だからといって高額運賃を押し付けられている北総線沿線住民が、海外(への、からの)旅行者およびその運搬鉄道会社がノウノウと北総よりも安い運賃(北総線敷設コストの低い負担)でここを通過するのを指をくわえて見ている理由にはならない。

 海外(への、からの)旅行者やその運搬鉄道会社が、北総線沿線住民並みのコストを負担することになったら成田新高速計画そのものが成り立たなくなるというのであれば、その時初めて北総鉄道のインフラコスト(巨額負債)という問題が、この地域のローカルな問題にとどまらず、国や県が真に「自分たちの問題」として取り組まざるをえなくなることを意味する。

 それはこの地域の住民にとって、歓迎することはあっても、困るような事態ではまったくない。人によって年に一回か二回、あるいはせいぜい数十回成田空港を利用する際に払うだけでも耐えられないようなインフラコストを、北総線沿線の住民は毎日強いられてきて、これからもそうした事態が放置されようとしてきたことに、国や県の責任者がようやく気づくという、ステキな場面を早くこの目で見てみたい。


[2]高額運賃の構造

(月刊 千葉ニュータウン2006年10月14日付所載)

北総鉄道の収支構造

 北総鉄道は、売上高(営業収益)約130億円の小規模な鉄道会社である。高砂〜小室間を第一種鉄道事業者、小室〜印旛日本医大間を第二種鉄道事業者として運営しているのみであり、不動産等の事業も持たず、極めてシンプルな事業形態となっている(表2−1 )。

 シンプルな事業形態およびスリムで効率的な経営に努めた結果、営業利益率は売上の30%を超え、首都圏の大手私鉄と比較しても、群を抜いた良好なパフォーマンスを示している。表2−2にあげた鉄道会社の中で営業利益率が30%台に達するのは、東海道新幹線というドル箱路線を有するJR東海と北総鉄道のみである。

 このように、鉄道会社としては極めて良好なパフォーマンスを示している北総鉄道だが、二つの重い足枷が、いつ果てるとも知れない「泥沼」に同社を引きずり込んでいる。

 第一の足枷は、千葉ニュータウン事業の停滞により、沿線人口の伸びが低迷していることであり、第二の、そして最大の足枷は、いわゆる二期線敷設に伴う約1000億円という巨額の固定負債の存在である。

 「34万人都市」を標榜してスタートした千葉ニュータウン事業は、その後数次の計画見直しを経て、現在14万人余の目標へと修正されているが、この修正目標とてリアリティをもって受けとめる向きは少なく、相変わらず「絵に描いた街」(小田隆造氏著書タイトル)状況が続いている。

 こうした環境に対して、北総鉄道の経営陣と職員は、徹底的なコストカット、さまざまなアイディアをこらした乗客誘致策などによって、上述の優秀な営業収支パフォーマンスを実現するが、それでも会社設立以来ずっと債務超過状態が続いている。
それ以上に重い足枷は、二期線敷設に伴う巨額の固定負債である。

 同社の固定負債は開業からずっと500億円前後で推移してきたが、平成2年度から一気に1500億円に近い水準に跳ね上がり、現在も1000億円前後の水準にある。これは、新鎌ヶ谷〜高砂間の開通、「都心直通」の実現(平成3年)に伴って、いわゆる二期線敷設分の負債が大きく同社の屋台骨にのしかかったことを示している。

 その結果、同社は130億円の売上に対して、1000億円近い借金を抱え、その返済に売上の半分近い60億円ほどを毎年支払い続けるという過酷な経営を強いられている。

 このような財務状況をみていると、北総鉄道という会社の、《二期線敷設に伴う負債を大口債権者に払い続けることによってのみ存続が許され、そのことにのみ存在理由が見いだされる会社》という実態が浮かび上がってくる。

 巨額債務を抱える北総鉄道は、これまで何度か千葉県、都市公団(現・都市再生機構)、京成電鉄などの支援を受けることで、倒産を免れ、存続してきた。こうした北総鉄道の実態と高額運賃是正をめぐる沿線住民や自治体などとの議論のぶつかり合いを眺めていると、ある「構図」が存在することに、いやでも気づかざるをえない。

インサイダー対アウトサイダー

 北総鉄道のステークホルダー(利害関係者)としては、表2−3のような構成が考えられるが、これらのステークホルダーは、同社が内包する深刻な矛盾によって引き裂かれ、利害が対立している。

 中核的なステークホルダー(千葉県、京成電鉄、都市再生機構、鉄道・運輸機構など。ここでは「インサイド・ステークホルダー」と呼ぶ)にとっての唯一の関心事は、いかにして同社を破綻させずに生きながらえさせるか、債務の償還を続けさせるかという一点にあることが、これまでの議論、同社への関わり方、支援のしかた等々から推定できる。

 一方、沿線住民や自治体など、高額運賃の是正を強く望むグループ(末端部分=アウトサイド・ステークホルダー)からの要請は、インサイダーたちの利害、目的とは相容れない。だから、こうした要請が真剣に検討されたことは、これまで一度もなかった。

 要するに、北総鉄道という会社は、高額運賃を通して沿線の利用者から吸い上げるだけ吸い上げ、それをすべて借金返済に振り向ける、ポンピング・マシーンとしてのみ存続が許され、そこにのみ存在理由が見いだされる、そのような会社であったし、今もある、これからも存続する限り、そのような役割を果たしていくだろう。

 こうした中で、同社が創業以来内包してきた矛盾は、常に「中枢(インサイド)から末端(アウトサイド)へ」という流れで処理されてきた。高額運賃は、そうした矛盾処理の最たるものである。そして、インサイドとアウトサイドの境界にあって、アウトサイドに矛盾を押しつけるとともに、万が一にも逆流≠ェ起こることのないよう、バルブの役割を果たしてきたのが、北総鉄道という会社の存在だといえる。

 同社が創業以来内包してきた矛盾としては、以下のようなものがある。

@千葉ニュータウン事業の失敗(「34万人目標」→「14万人目標・現状8万人」)により事業の前提条件が大きく変わってしまったこと。

A将来的な成田新高速含みで、都心直通路線(二期線)を押しつけられたこと(単なる通勤電車なら、北初富〜新京成〜松戸〜千代田線ルートで十分だった。二期線(都心直通)は、成田新高速計画との密接な関連の中で敷かれた線路であることを覚えておこう)。

 @+Aの結果、当初の見込みを大きく下回り、いつまで経っても伸びない売上規模と、分不相応な<Cンフラ投資という二重苦に苛まれている。

Bたとえ、以上のような特殊事情がなくても、現在の首都圏で新規に鉄道を走らせるには、インフラの整備に莫大な投資を要することを軽視した陣容、支援体制でスタートしてしまったこと(北総より遅く事業着手された「つくばエクスプレス」は、最初から北総よりはるかに手厚い公的な支援体制が敷かれている)。

 いずれも、矛盾の根元は中枢(インサイド)にあるにもかかわらず、これまで「中枢から末端へ」という流れが維持される中で、矛盾の解決はおろか矛盾を正確に見つめることさえ先送りされてきた。

 しかし、成田新高速鉄道計画の具体化によって、このような先送り≠ェ許されない状況が生まれつつある。


[3]成田アクセスと北総線

(月刊 千葉ニュータウン2006年11月18日付所載)

成田新高速計画の露払い役を務めてきた北総線

 (参考)年表「成田アクセス鉄道と北総線整備の流れ

 千葉ニュータウン事業での鉄道計画としては当初、東武野田線、新京成線、国鉄成田線の各駅までバスで輸送し、これらの鉄道各駅から地区外通勤者の輸送を行うとともに、「将来段階的に鉄道新線の導入を計画」していた(千葉北部地区宅地造成事業計画概要−昭和44年1月、千葉県北総開発局宅地開発課)。

 三里塚に空港が建設されることになり、それへのアクセスとして成田新幹線計画が明らかになるのは、上記の文書が作成されてから約1年半後の1970年5月であり、都心から千葉ニュータウンへの通勤電車を運行する北総開発鉄道鰍ェ設立されるのは、さらにそれから約2年後の1972年4月である。

 都心と成田空港を早く結ぶという新幹線本来の性格からいえば、途中の停車は避けるべきであることから、当初「千葉ニュータウン駅」の設置は予定されていなかったが、国鉄が「途中駅なしでは採算性に疑問がある」と主張する形で、新幹線計画の中で千葉ニュータウン駅が位置づけられることになった。当時から、わが地区は成田アクセスを経済的に成立させるための仕掛け≠フ一つに目されていたわけである。

 しかし、両計画のその後の進展は、対照的なパターンをたどる。

 成田新幹線は、1972年に工事実施計画が認可されると、沿線の江戸川区や浦安町の住民が反発し、計画が暗礁に乗り上げる一方、千葉ニュータウン住民が都心に通勤するアシとして整備される北総開発鉄道は、1972年5月の会社設立後、着々と計画が進行する。

 そして、成田新幹線計画が1983年に工事が凍結されるのを尻目に=A北総開発鉄道は第2期区間工事の実施に向けて歩を進める。しかし、このことは、もともと成田新幹線計画と並行的あるいは補完的に、ある意味では成田アクセス鉄道の一部分として進められていた北総線計画が、気がついたら「相方」の姿が消え去り、単独で走り続けざるをえなくなったことを意味しており、この時生じた最初の「蹉跌」が後々まで引きずられてきたと見ることもできる。

 沿線地域の住民の反対などで新幹線の工事計画が暗礁に乗り上げる中で、1984年にようやく新幹線に代わるプランが決定される。このプランは、@東京駅から江戸橋まで新線を整備、A京成上野・江戸橋〜京成高砂〜印旛日医大間は都営浅草線、京成本線・押上線、北総鉄道北総線を活用、B印旛日医大〜成田市土屋は新線整備、C土屋〜成田空港旅客ターミナルビルは成田新幹線の路盤を活用するというものだった。

 このうち、Aについては当時はまだ小室〜千葉ニュータウン中央間が住宅・都市整備公団鉄道線として開業した直後であり、京成高砂〜新鎌ヶ谷間および千葉ニュータウン中央〜成田空港間が整備すべき路線として運輸政策審議会答申に盛り込まれるのは、翌1985年7月11日のことだった。

最初から「新高速」モードで敷かれた鉄道

 以上、千葉ニュータウン事業の一環として整備されてきた北総線と、成田空港へのアクセス線として計画が進められてきた高速鉄道線とは、極めて密接な関連性において整備が進められてきたのは確かであり、この2つの鉄道は相互に補完的ともいえる関係にあることが確認できる。

 たとえば、現在都心から成田空港までのアクセス鉄道としてはJRの「成田エクスプレス」と京成の「スカイライナー」があるが、前者(東京〜成田空港)の走行距離79・2kmに対して後者(京成上野〜成田空港)は69・3kmと10kmも短いにもかかわらず、運行時間はスカイライナーの方がかかるのは、京成線の線形の悪さで高速運転ができないためといわれる。

 スカイライナーを成田新高速鉄道ルート(京成高砂〜印旛日医大〜成田空港)を走らせても距離的にはそれほど短縮されるわけではないが、線形の点で北総鉄道区間が高速運転に適している。

 北総線というのは、途中頓挫した成田新幹線計画と、これから敷設される成田新高速鉄道とを細々ながらも繋いできたとともに、成田新高速線のための先行投資的な部分をも引き受けてきたといえる。2010年に都心と成田空港を30分台で結ぶ成田新高速鉄道計画が、千数百億円ぽっちの投資額で済むのは、この間北総線の沿線住民らが高額運賃という形で負担してきた「蓄積」と決して無関係とはいえないのである。


[4]他山の捨て石

(月刊 千葉ニュータウン2007年6月9日付所載)

 『歴史をさかのぼれば、洋の東西を問わず、公共交通機関は、利用者による直接負担(運輸収入)で必要なコストの大部分をカバーしていた。しかし今日、その状況はまったく変わっている。社会的に必要とされる交通サービス供給体制の維持にあたって、当該サービスの利用者というもっとも直接的な受益者からの、 利用の程度に応じて支払われる料金収入だけに頼っているケースは世界的にみて非常に珍しくなっている』(正司健一「都市と鉄道」(社)日本民営鉄道協会 「みんてつ」2002年4月号)。

「北総の轍」を踏まぬために

 北総鉄道と、その後に首都圏で整備された鉄道とを比較すると、会社の骨格・体制や公的な支援において、歴然とした差がある。

 資本金は、およそ北総鉄道250億円に対して東葉高速鉄道305億円、つくばエクスプレス(首都圏新都市鉄道)1850億円であり、そもそも会社として の体力がツッポン=i月とスッポン)状態である上に、資本金に占める県や沿線市町村などの自治体の出資分が北総25%に対して、東葉73%、つくば90%と、公的機関の関与のしかたがスタート時からまるで違うのである。

 さらにはっきりとした差がみられるのが、自治体からの無利子融資の額である。東葉約63億円に対して、つくばEXは3,220億円を自治体から無利子で融資を受けている。対する北総はといえば、つい数年前まで市中よりはるかに高い財政投融資の金利負担に苦しめられてきた。北総の決算が平成12年度から黒字に転換した最大の理由は、財投の金利が下がり、また借り換えも可能になったことだといわれている。

 こうした「格差」というより、ほとんど「差別」と表現したくなるほどの、北総と後続鉄道との違いが、「北総の轍を踏まないためにどうするか」という問題意識から生まれていることは明らかであろう。1972年設立の北総鉄道が終始経営的に苦戦し、利用者に度重なる運賃値上げを押しつけながらも、それでも 「焼け石に水」状態だったことが反面教師≠ニなり、東葉高速(会社設立1981年)、つくばEX(同1991年)と、後に行くほど経営体力的にも公的な支援枠組みの点でも、盤石で手厚くなっていったのは、当然の成り行きといえた。

 1972年設立の北総鉄道から1991年設立のつくばEXに至るダイナミックな社会実験≠通じて、正解≠ヘ次第に誰の目にも明らかになっていった。最近整備された鉄道ほど、経営体力的にも、公的な支援の枠組みの点でも盤石で手厚くなった、言い換えれば「北総の轍」を脱することが、現代の首都圏の鉄道を整備するための必要条件の一つという共通認識が確立されてきたといえる。

受益者負担こそ「北総流」

 にもかかわらず、北総は1970年代初頭の枠組みのまま放置されてきた。後続鉄道では、最初から資本金の出資やら無利子貸付といったかたちで、公的に負 担されてきたものが、北総では「巨額債務」やら「債務超過状態」といったかたちで会社の責任領域の問題として残され、それが高額運賃を沿線住民に押しつけ続ける理由、根拠となった。

 冒頭の正司論文の表現を借りれば『当該サービスの利用者というもっとも直接的な受益者からの、利用の程度に応じて支払われる料金収入だけに頼って』、 『社会的に必要とされる交通サービス供給体制の維持』が行われてきた『世界的にみて非常に珍しい』ケースが、まさに北総鉄道なのであり、事情はどうあれ、 北総鉄道をめぐる「放置状態」はずっと続いてきたことを、改めてここで確認しなければならない。

 北総鉄道の根本的な経営基盤には一度もメスが入れられることなく、つくばEXのような手厚い公的な支援の手は一度も差し伸べられることもないまま、ただただ沿線住民に押しつけられた高額運賃だけで北総鉄道という会社は維持されてきたのである。

 これまで何度か、千葉県をはじめとする関係機関による北総鉄道に対する緊急支援は行われてきたが、それは救急患者に対する対症療法的な痛み止めないし延命措置にすぎず、北総鉄道の経営基盤の抜本的な強化、生活環境から見直した健康な身体づくりといったものからはほど遠いものでしかなかった。

 とりわけ、成田新高速鉄道計画が実現に向けて進展しはじめた現在、このことは重要な意味をもつ。

 つまり、北総鉄道の線路を使って、成田新高速を走らせる運輸業者とその乗客も、『料金収入だけに頼って維持されてきた、世界的に非常に珍しいケース』としての北総鉄道という特殊事情から逃れることはできないのである。

 北総鉄道の線路の上を「世間並みの」リーズナブルな料金で通過したかったら、北総線沿線の利用者と一緒になって、『直接的な受益者からの、利用の程度に応じて支払われる料金収入だけに頼る』状況からの 脱出を国や県に求め、それを実現させるしかないことを、北総鉄道の線路を利用するすべての利用者が確認する必要がある。


[5]上下分離でコスト負担の透明化を図れ

(月刊 千葉ニュータウン2007年2月10日付所載)

平等なコスト負担とは

 いま仮に北総鉄道を、線路を保有し管理する会社(A社)と、A社から線路を借りて電車を走らせる会社(B社)の二つの会社に分けて(上下分離)、それぞれが独立した会社として運営される形を想像してみよう(図5−1)。

 現在の北総鉄道のように、自ら所有する線路を使って鉄道営業を行う会社を「第一種鉄道事業者」、上記B社のように他者から線路を借りて鉄道による旅客・貨物の運送を行う会社を「第二種鉄道事業者」、上記A社のように線路を保有するが、自らは運送業務を行わず、他者に線路を賃貸する会社を「第三種鉄道事業者」と呼ぶ。

 成田新高速を走らせる京成電鉄は、北総線区間は「第二種鉄道事業者」として、電車を運行する。つまり、現在の北総鉄道を上下分離した場合のB社と同じ立場ということになる。

 上下分離後のA社は、線路を保有するとともに、この線路を敷設したことにより北総鉄道が負ってきた債務を引き継ぐ。債務の返済は、A社の線路の上を走る第二種鉄道事業者からの線路使用料収入を充てる。

 線路の使用料は、何両編成の電車を何本、何キロ走らせたか(車両キロ数)をもとに設定され、特急とかスカイライナーは一定の割り増し料金が課される。

 これまで北総線の高額運賃を下げられない最大の理由として、いわゆる二期線をはじめとする線路の整備に要した巨額の負債があることがあげられてきた。このようなインフラコストを鉄道利用者からの運賃収入だけで償還していくという事業運営の方法には大いに疑問の余地があり、さまざまな議論が行われてきてはいる。しかし、今のところそれらの議論はまさに議論にとどまり、「対案」が現実化されたケースは何一つとしてない。

 実態はまさに運賃収入だけでこのコストの償還が図られており、ほぼ完全な「原価主義に基づく受益者負担の原則」(要するに「これだけ費用がかかったのだから、利用者はこれだけ払うしかないでしょう?」という、芸も素っ気もない理屈)が貫かれてきたのである。

 北総鉄道が鉄道・運輸機構などに対して抱えている借金は約1000億円で、いまざっと元利合わせて年間60億円くらいずつ返済している。売上高120〜130億円の会社がその約半分を借金の返済に回しているのだから、経営は苦しいだろうし、運賃値下げなど当分ムリという、北総経営陣の言い分は十分理解できる。

 運賃問題も、成田新高速の事業化も、この北総経営陣の苦渋に満ちた声に、虚心坦懐に耳を傾けるところからスタートするしかないだろう。

 であるならば、このインフラコストを負担する別の枠組み(公的負担など)が実現するまでは、このインフラコスト(巨額負債)は、この線路の上を走るすべての鉄道会社、利用者が平等に負担するしかない。

 その場合の「平等に」の部分を最も透明かつ公平に保証するのが、線路を保有する者と、鉄道を走らせる者とに経営主体を分ける「上下分離」方式だと考えられる。

問われる高額運賃の根拠

 成田新高速鉄道の事業者や監督官庁などが、北総線の区間をどのくらいの「線路使用料」を払って列車を運行しようとしているのか、現段階では明らかでない。しかし、「成田新高速鉄道事業化推進に関する調査報告書」(平成13年3月)において、仮にではあるが、京成上野〜成田空港間の運賃として1000円という数字が記述されていることなどからすると、北総鉄道の抱える負債(インフラコスト)については「我関せず」で、「原価主義に基づく受益者負担の原則」とは別の原則で「線路使用料」を決めようとしているフシも感じられる。

 もしそうだとすると、これまで北総線の運賃値下げを拒否してきた論理の正当性が崩れることになる。成田新高速の運行主体が、「世間並みのリーズナブルな」線路使用料で北総線区間を通行できると考え、北総鉄道が安易にそれを認めるようなことがあったら、これまで北総線の運賃値下げ要求を却下するのに使われてきた「原価主義に基づく受益者負担の原則」なるものは、相手によって適用が変わる程度の、大して根拠のない主張だったことになる。

 北総線を利用している沿線の住民や自治体、議会などは、成田新高速鉄道事業が具体化しつつあるこの段階で、少なくともこの点だけは明確に地元としての立場を主張してよいのではないか。

 第一に、成田新高速がその上を走ることになる北総線区間は、鉄道・運輸機構が巨額の資金を投じて敷設した線路であるため、「線路使用料」は世間水準≠ニ比べると目の玉が飛び出るような金額になるかもしれないが、鉄道会社の目的や性格がどうであれ、この区間に鉄道を走らせるすべての事業者は北総鉄道が抱える巨額負債に共同で責任を負わせられるならわし≠ノなっていることを理解してもらうしかない。

 第二に、京成高砂〜新鎌ヶ谷区間(二期線)は、成田空港へのアクセス鉄道計画と密接な関係のもとに敷設された線路であり、その意味でもこの線のインフラコストに、成田新高速鉄道の事業者および監督官庁が「我関せず」で済まされるわけもない。

 第三に、北総線区間は、これまで沿線の利用者らが高額運賃を払うことによって積み上げてきた「宝」であり、後からこの「宝の山」を利用する事業者は、この「宝」の価値に深い関心と敬意を払うべきである。

アウトサイダーの一分(いちぶん)

 本連載の[2](高額運賃の構造)でみたように、北総鉄道という会社の唯一最大のミッション(任務)は、安くて便利な鉄道を走らせて、千葉ニュータウン地域の発展に寄与することでもなければ、沿線の住民や自治体と良好な関係を築くことでもない――、ただただ高規格の線路敷設に伴う債務を償還していくこと、そのために一円でも多く沿線利用者から吸い上げ、それをすべて債務の返済に充てることなのだと解釈するほかない。

 運賃値下げなどという選択肢は、最初からこの会社のミッションにもDNAにも含まれていないのである。この会社に運賃値下げを陳情したり、期待するのは時間とエネルギーのムダ以外の何者でもなく、決算が何期連続で黒字になろうと関係ない。同社のスポークスマンが言う「決算と資金繰りは別」との言い分は、一応の「整合性」はとれている。資金繰りについていうと、売上の約半分を今後見通しうる長期にわたって借金返済に充てることになっているのだから、間違っても運賃値下げに回す資金的余裕など生まれるはずもない。

 だから、成田新高速鉄道が開通し、スカイライナーがこの線路の上を毎日走るようになった暁には、むしろこのミッションが100パーセント遂行され、新しい鉄道事業者にも北総線の高額運賃が平等に%K用されることを期待する方が、相も変わらぬ「運賃値下げ」要求を繰り返すよりも、事態の本質に迫ることができ、結果的に道が開けるかもしれない。

 連載第2回でみたように、北総鉄道の中核的なステークホルダー(インサイダー)は、沿線住民や自治体などのアウトサイド・ステークホルダーの切なる要望に耳を傾けることなく、ひたすら上述のミッションの遂行を図ってきた。

 言い換えれば、沿線住民や自治体などのアウトサイダーが叫んできた運賃値下げ要求は、北総鉄道の企業価値を減じる方向で作用する性質の主張であったのに対して、中核的なステークホルダー(インサイダー)は、そうしたアウトサイダーたちの無理解な要求をシャットアウトすることで、北総鉄道の企業価値を向上(あるいは維持)させるべく努めてきたと見ることもできる。

 しかし、成田新高速開通に向かって、沿線住民や自治体などのアウトサイダーもまた、北総線が地域の「宝」であるとの認識を新たにし、北総鉄道の企業価値を向上あるいは維持する方向で積極的に働きかけることが可能になったし、またそうすべきである。

 新しい第二種鉄道事業者(成田新高速運行会社)に対して、これまでわれわれが高額運賃で負担してきたのと同じ高額の線路使用料を請求・徴収することは、北総鉄道がかかえる巨額の負債がそれだけ早く償還され、同社の企業価値を守ることになるのだから、まことに喜ばしい。線路を保有する者とその上に列車を走らせる者との関係はかくありたいものである。

 そして、北総線沿線の自治体は、少額とはいえ北総鉄道の株主なのだから、株主(代表訴訟など)の権利を最大限行使し、蓄積された「宝」の価値が散逸するのを防ぐべきである。

 その結果、成田新高速鉄道の採算見通しが厳しくなったり、法外な乗車料金の設定が不可避になるなど、事業計画の大幅な見直しが必要になったとしたら、その時初めて北総線のような高規格の鉄道施設を公的な支援の枠組みも十分でないまま敷設し、建設コストの大半を鉄道利用者からの運賃収入だけで償還しようとしてきた、北総鉄道をめぐる全体的なスキームが俎上に上り、高額運賃の源となっている諸構造にメスが入るだろう。

 それこそ、多くの沿線住民が永らく待ち望んでいた「春」ではあるまいか。


[6]誰がための通学定期補助

(月刊 千葉ニュータウン]2007年8月11日付所載)

このままでいいのか 通学定期補助

 3年前から沿線自治体が実施している通学定期の補助措置は、17年度から21年度までの5年間続けることを前提に、毎年度補助事業を実施するための予算が計上されている。なぜ、21年度までかといえば、成田新高速鉄道の開通が22年度に予定されており、とりあえずそれまでの緊急避難措置としてこの補助制度が執行されているわけである。

 しかし、一歩踏み込んで考えてみると、この5年間という時限措置は、中途半端な「先送り」以外、何の策もないことがわかる。

 平成22年度に成田新高速が開通する――、だから何なのか。成田新高速が開通したら、北総線の運賃問題に何らかの変化が現れるのか。現れるとして、どんな変化か。誰か責任ある者がそれを約束してくれたのか。・・・・何も約束されてなどいないのである。

 成田新高速鉄道が予定通り22年度に開通したとして、それが北総線の運賃にどのような影響が出るのか、出ないのかといった、雲をつかむような詮索とは別に、現在の通学定期補助はなるべく早く見直しに入った方がよいのではないか。

 「22年度」というタイム・スケジュールは、成田新高速などよりももっとこの問題に直接的で、密接な関連のあるイベントをもって想起されるべきである。

 そのイベントとは、言うまでもなく新・印旛高校の開校である。

 印旛高校が現在地から国道464号に面した地区に移転し、「進学を重視した、新しい単位制高校」として生まれ変わるのが、22年度である。

 今まで、ニュータウン地区の生徒が希望をもって入学しようという高校がこの地域になかった。だから、北総鉄道の高額運賃を払ってでも、地域外の高校に通うのが一般化していた。

 しかし、これからは新・印旛高校がこうした生徒を迎え入れ、生徒や親が納得できる、高いレベルの教育を実現することになる。また、実現してもらわねばならない。地元の行政も住民も、新しい高校を全力でサポートし、県が掲げる「進学を重視した、新しい単位制 高校」という理想を現実のものとしていくことが求められる。

 そうしたサポート、努力を払う一方で、地域外の高校へ通う通学生のために税金から通学定期の補助をするというのは、政策的に矛盾する。新・印旛高校の開校が具体的な日程表に上った今は、この高校の質的な充実、多くの生徒にとって真に魅力的な高校とすることを最優先すべきであり、これと矛盾する(というより、この努力の足を引っ張る)ような政策からは手を引くべきだろう。

 新・印旛高校が22年度開校ということは、現在の印旛高校に来年度入学してくる生徒が開校時3年生ということになる。したがって、2市2村の20年度予算から、この通学定期補助事業は厳しく見直すとともに、並行して新しい(進学重視の単位制)高校への生徒の誘導を意識した政策に力点を切り換える必要がある。

 通学定期補助事業を20年度で見直すとなったら、今後も地域外の高校へ通う生徒やその家庭が再び大きな負担を強いられることになるが、とにかく20年度以降北総線の通学定期の割引率を引き上げるために、税金を使って補助するといった措置の正当性には大きな疑問符がつけられることは間違いない。

 もともと公的資金による通学定期補助事業は、北総鉄道鰍フ経営が苦しく、ベース運賃を見直すことも、通学定期の割引率を他の鉄道会社並みにすることも困難という言い分を前提に、やむなく2市2村の行政が乗り出した措置である。しかし、公的資金を使うことに疑問符がつこうとしている今、もう一度北総鉄道の責任範囲の問題に戻すことが、地域全体でみて求められているのではないか。

 変わったのは、新・印旛高校の開校という事情だけではない。本来、この問題を自己責任で解決することが求められる北総鉄道サイドでも、「経営が苦しく、通学定期の割引率を他の鉄道会社並みに引き上げることは困難」という言い分について、果たしてこれを額面どおり受け取り続けていってよいものか、疑問を感じさせる要素が、成田新高速計画の進展とともに露呈している。

 この点について、次回さらにみていく。


[7]千葉ニュータウン鉄道(旧公団線)にみる不透明な「関係」(上)

(月刊 千葉ニュータウン2007年10月13日付所載)

賃貸がトクか、分譲がトクか、みたいな話

 前回、公的負担による通学定期補助を見直すべしとする理由として「北総鉄道の経営が苦しく、通学定期の割引率を他の鉄道会社並みにすることは困難」との言い分を額面どおり受け取ってよいか疑問だと述べた。

 なぜこのような疑問をいだいたかというと・・・。

 北総鉄道は平成18年度、千葉ニュータウン鉄道へ線路使用料として20億7200万円払った(決算報告書より)。

 千葉ニュータウン鉄道(以下、本文では「CNR」という)というのは、小室〜印旛日医大間12・5kmの線路施設を保有・管理する会社であり、都市基盤整備公団(現・都市再生機構)が16年2月に鉄道事業を譲渡する際の譲渡先として、京成電鉄が100%出資して設立した「受け皿」会社である。当時の公団の譲渡金額は総額193億円、うち43億円は千葉県が補助し、京成電鉄は150億円でこの鉄道施設をゲットした。

 北総からCNRへの線路使用料年間約20億円が、線路使用料の「相場」からみて高いのか安いのか、それは知らない。また、線路使用料とは別に、CNRから北総に線路の維持管理費として十数億円が支払われているので、実際のお金のやり取りはそれを差し引いた額ということになる。しかし年間売上約130億円の北総鉄道が、親会社(京成は北総鉄道の株式の51%を保有)が150億円でゲットした鉄道施設に年間20億円の線路使用料を払うというのは、やはり分不相応≠ニいうか、著しくバランスを失している感は否めない。

 そもそも、なぜ「北総」でなく、「京成」だったのか。

 小室〜印旛日医大間は、将来は成田新高速が走る予定であるとしても、まずは現に北総線の一区間なのだから、他の誰よりも北総鉄道こそこの線路を譲り受けるにふさわしいはずだし、譲渡する側の都市公団にしても、千葉ニュータウン事業の事業者なのであり、そのための北総線であることを考えれば、なぜ北総の頭越しに京成に譲渡されてしまったのか、理解に苦しむ。

 北総も北総である。

 京成(の100%子会社)へ年間20億円ずつ払っていくくらいなら、いっそのこと、自らが都市公団からゲットして、ローンで返済すれば、7年ちょっとで償還できてしまうではないか。どうして、こんなおいしい話≠むざむざ逃してしまうのか。「経営が苦しい」どころか、何とも気前のいい、悠長な話ではないか。

 北総鉄道は、小室〜印旛日医大間の線路施設を自らゲットしなかったばっかりに、ローンで払えば7年と少々で自分のものにできたはずの超優良物件≠フ「家賃」をこれから先ずーっと親会社に払い続けるのである。

 北総線沿線の住民や自治体は、何とか北総鉄道が現在の苦境を脱し、今すぐはムリでも、いずれ高額運賃を引き下げるくらいに「普通の会社」になってほしいと願ってきたが、どうやら北総鉄道の中核的なステークホルダー(千葉県、京成、都市再生機構、国など)の思惑は、それとは異なるようだ。

生かさず殺さず

 中核的ステークホルダーたちは、これまで北総鉄道が経営危機に陥ると、融資したり、債務の返済を繰り延べたり、何度か支援策を実施してきたが、いずれも救急・延命治療的な措置であって、抜本的に北総の経営基盤を強化し、「普通の会社」への道を開くようなものではなかった。小室〜印旛日医大間の鉄道施設を北総鉄道に払い下げることは、巨額負債がついて回る高砂〜小室間とは比較にならない「優良資産」を同社がゲットし、経営基盤が目覚ましく改善されるチャンスだったのに、中核的ステークホルダーたちは寄ってたかってそれをツブしたのである。
 
中核的ステークホルダーたちにとって、北総鉄道というのは2期線敷設に伴う巨額負債を返済するためだけに存続させている会社であり、だからツブれては困るが、かといってあまり健全・元気になられても困るのかもしれない(ヘタをすると、運賃値下げを約束せざるをえなくなる?)。

 つまり、北総鉄道という会社はすでにして、中核的ステークホルダーたちの中では、「国鉄民営化」の時の国鉄清算事業団≠フような位置づけになっていて、「儲かる話」「前向きの話」はすべてJRグループ=i成田新高速)がさらっていってしまう。小室〜印旛日医大間の鉄道施設を北総でなく、京成に譲渡した狙いも、その方が成田新高速を走らせる京成にとっての負担が小さくなるという一点にあったのではないか。

 一方、北総線沿線地域は、国鉄民営化の時の国労や動労のような抵抗やサボタージュをしたわけでもないのに、JRグループ≠ゥらは置いてけぼりを食らい、知らないうちに清算事業団¢gに留め置かれようとしている。

 これが沿線地域にとって唯一の本質的な問題であり、いわれなきリスクといえる。事情があって自己破産できない多重債務者を身内に抱えているようなもので、突然の破局もない代わり、事態の改善も期待できない、ある意味では一層始末の悪い、より深刻な事態がいつまでもだらだらと続く。


[8]線路使用料の透明性

(月刊 千葉ニュータウン2007年10月13日付所載)

スジの通った線路使用料の設定を

 北総鉄道は、@高砂〜小室間は自前の線路を走る「第一種鉄道事業者」、A小室〜印旛日医大間は、京成電鉄の100%子会社である「千葉ニュータウン鉄道」が線路を保有し、北総はその線路を借りて運行する「第二種鉄道事業者」である。このうちAの区間では、北総は線路の借り賃(線路使用料)として18年度20億7200万円を千葉ニュータウン鉄道に支払っている。今後も乗客数の増減により若干の変動はあるが、だいたい年間20億円前後の線路使用料を払っていくと予想される。

 では、@の区間、つまり北総自身が線路を保有し、巨額負債の返済を続けている高砂〜小室区間については、成田新高速鉄道を運行する京成電鉄からどのくらいの線路使用料をいただけるのか。

 「成田新高速鉄道事業化推進に関する調査報告書」では、「北総・公団線施設使用料」として、「列車運行に伴う維持管理費」と設定されているが、もちろん、こんなのは仮の想定とはいえ論外の話である。

 北総鉄道は、いわゆる2期線と呼ばれる高砂〜新鎌ヶ谷区間の線路敷設に伴う巨額の負債ゆえに、高額の運賃を利用者に強いている。つまり、利用者はこの区間の線路の「建設費」までも負担してきたのである。成田新高速鉄道が、この区間を走る際の線路使用料として「維持管理費」しか負担しないというのは、およそ非現実的で非常識な想定というほかない。

 非現実的といえば、同報告書では成田新高速鉄道の上野〜成田空港間(約64km)の普通運賃を1000円と想定している。このうち約32km、ちょうど全体の半分を占める北総線区間(高砂〜印旛日医大)の運賃が現在820円である。すると、成田新高速は残る半分の距離を180円で走るつもりか。悪い冗談である。こんなンでいいのか、「事業化調査」!!

 820円という運賃は、北総鉄道の徹底した合理化、効率経営にもかかわらず、線路の敷設費が高いために導き出された運賃であり、同じ区間を他の鉄道会社が列車を走らせても、それほど安い運賃が設定できるとは考えにくい。だから、京成がまともに北総線区間の線路使用料を払えば、上野から成田空港までの運賃は1500〜1600円くらいになるはずだ。そういうことを折り込んでの「事業化調査」でなければ意味がないのではないか。

既成事実化される前に地元の声を

 高砂〜小室間の線路使用料については、今後第一種鉄道事業者(北総鉄道)と第二種鉄道事業者(京成電鉄)との間で線路使用料を取り決め、国土交通大臣の認可を受けるというスケジュールが予定されている。

 しかし、こういうものはいざ決まってしまえば、沿線地域ごときがどんなに泣こうがわめこうが、それが既成事実になってしまう。それが今までのパターンだった。

 沿線地域の住民や自治体、議会は、そうなる前にこの問題に重大な関心を払い、自ら高額運賃を負担してきた立場から、十分納得のいく線路使用料が設定されるよう、監視、働きかけを強化するべきだ。

 前述したように、千葉ニュータウン鉄道が管理する小室〜印旛日医大間12・5kmの線路使用料として、北総は約20億円払っている。北総線の残りの区間(高砂〜小室)は19・8kmあるから、単純計算すると、この区間の線路使用料として、北総は成田新高速鉄道の運行会社(京成電鉄)から31億円ほどいただかねばならない。もちろん、スカイライナーのような高速電車を走らせる場合は、普通の電車より線路使用料は割増しになるだろうし、また、列車の本数、車両の連結数なども変数に入れて計算することになろう。

北総鉄道の経営陣にエールを!!

 さらに、線路の敷設コストを計算に入れる必要がある。北総線の名だたる高額運賃は、線路敷設の高コストゆえと説明され、現にこの高コストが反映された運賃が実施されてきたのだから、このプリンシプルは相手がだれであろうと、北総鉄道の巨額負債が完全に償還される日まで貫かれなければならない。

 この国は資本主義なのだ。

 高砂〜小室間の線路敷設に伴う負債の現在残高がざっと900億円として、京成電鉄が都市基盤整備公団から小室〜印旛日医大間の線路施設をゲットした時の対価150億円の6倍、距離(12・5km対19・8km)を勘案したキロ当たりでみると約3・8倍である。この3・8倍というコスト差を線路使用料の算定に反映させた場合(当然そうすべきだと思うが)、小室〜印旛日医大間の線路使用料約20億円を前提にすると、高砂〜小室間の線路使用料は約76億円、ナンと、現在北総鉄道が払っている巨額負債の返済額をも上回る、ベラボーな額になってしまう。

 これはやはり、小室〜印旛日医大間の線路使用料20億円というのがベラボーだったと考えるのが自然であろう。

 結局、上記のような非常識な結果を避けるために両方を3・8で割って、高砂〜小室間の線路使用料として北総は京成から20億円ほど支払ってもらう、逆に小室〜印旛日医大間について、北総が千葉ニュータウン鉄道へ5億円ほど支払う――、こんな線でいかがでしょう。

 前述したように、小室〜印旛日医大間はそもそも北総鉄道が譲り受けても少しもおかしくなかった性格のものであり、もしそうなっていたら、京成は線路使用料を受け取るどころか、逆に払う義務を負うことになっていたわけだし・・・・。

 今後どういう計算式で相互の線路使用料を算出するつもりか知らないが、要は、これまで沿線地域に高額運賃を強いてきたのと同じ論理、根拠に基づいて線路使用料を設定するのでなければならず、「一物二価」は許されない。

 北総鉄道の経営者はこれまで、運賃値下げを求める住民や沿線自治体関係者などに向かって、「債務超過に陥っている当社が運賃値下げに応じることは、私たち経営陣による会社への背任行為になる。私たちを犯罪者にするつもりか」と、強く反論(威嚇?)してきた。

 その言や良し。

 全く同じ理屈を、今度は成田新高速の運行会社に対して、堂々と主張してもらおう。不当に安い線路使用料の設定は、北総鉄道株式会社のコンプライアンス(法令遵守)に触れる問題であるとの認識を、同社のすべてのステークホルダーが共有するとともに、成田新高速の運行会社に毅然として主張してくれる(であろう)北総経営陣の背中を皆で後押ししよう。


[9]ビジネスプランの甘すぎる想定

(月刊 千葉ニュータウン2007年11月10日付所載)

砂上のシナリオ

 この辺で本特集の論旨をもう一度整理しておこう。

 「成田高速鉄道事業化推進に関する調査報告書」(以下、「事業化調査」)では、上野〜成田空港間の普通運賃が1000円と想定されている。この想定だと、北総線を使って印旛日医大で「途中下車」した人の運賃が、終点の成田空港まで乗った人の運賃を上回ってしまう――、いわゆる「二重運賃」の話を聞くうちに、素朴な疑問、違和感が生じた。

 それは、「成田新高速の普通運賃がなぜそんなに安くなるのか。北総線と同じ線路の上を走るのに・・・・」という疑問であり、さらに「二重運賃」の話を取り上げる人のほとんどが上記の疑問を抱くこともなく、成田新高速の乗客が北総線の乗客のような高運賃に悩まされずに、すいすいと成田空港まで乗車できるといった想定に何の疑問も抱いていないようにみえることへの不審感であった。

 北総線の高額運賃は、北総鉄道の経営者がボンクラなためでも、労働組合がストばかりやっているためでもなく、主として(成田新高速もその上を走る)「線路」の建設費が嵩み、巨額の負債を抱えているためだと、これまで説明されてきた。

 上野〜成田空港間は約64km、高砂〜印旛日医大間はその半分の約32kmだが、この区間の運賃だけで820円もしてしまう。残る半分の区間は、まあ北総線ほどはコストがかからないとしても、いくら何でも180円(1000円ー820円)ではいかないだろう。とすると、上野〜成田空港間の普通運賃1000円という想定は、北総線区間の(われわれ沿線住民がずっと負担してきている)コストをきちんと負担せずに通過すること(タダ乗り)を前提にした、非常にムシのいい、不合理きわまる想定というしかない。

 もしそうだとすると、北総線沿線地域は、高額かつ不公平な運賃をこれから先もずっと強いられるだけでなく、「巨額負債を抱える北総鉄道」という不良資産を、ひとりこの地域だけが押しつけられ、これから先ずっと地域の発展にも、まちづくりの上でも大きな障害を抱え込むことを意味する。

 本特集で問題にしているのは、まさにこの点であり、もはや単に運賃が高いとか二重だといって、現象面だけを騒いでいる場合ではない。

 巨額負債を抱え、高額運賃を沿線利用者に強いる北総鉄道という存在には、これまでこの地域が歩んでくる過程で生まれた、多くの矛盾、理不尽、不幸が凝縮されている。

 そうしたものを沿線地域だけがずっと背負っていく謂われはどこにもないはずである。成田新高速の運行会社がこの負担を拒否できるのなら、われわれだって拒否できるはずだ。ならば、今まで長い間われわれが負担してきた高額運賃はいったい何だったのか。

「抵抗勢力」は誰だ!

 成田空港へのアクセス鉄道は、成田新高速鉄道が唯一、初めての鉄道というわけではない。現在、京成本線が上野から京成船橋や津田沼、勝田台を経由して成田空港まで運行しているし、JRも成田線を走らせている。成田新高速鉄道(上野〜成田空港間)の普通運賃が1000円に設定されているのは、こうした先行路線との整合あるいは競争力といった、ビジネス上の要請から導き出されたものであり、要するにこれ以上高い運賃を設定したら、「市場競争」に負けてしまうということのようだ。

 そこまではよく理解できるのだが・・・・。

 一方で、高砂〜千葉ニュータウン中央〜印旛日医大を経由するルートは、京成本線やJRルートとは違って、線路敷設に巨額の資金が比較的最近投じられ、この線路を保有する北総鉄道が巨額負債を返済している真っ最中なのである。しかし、この北総線の特殊事情≠ノついて、上記「事業化調査」では全く考慮されていない。なぜこんな大事なことを考慮しなかったのか。

 「事業化調査」とかビジネスプランというものは、当該事業がもつ社会的な意義やら収益性、ビジネスの斬新性等々、明るい、前向きの展望を情熱的に追求する一方で、当該事業にとって不利な条件、厳しい環境、懸念材料等々をも可能な限り洗い出して、一つ一つツブ≠オていくことが、事業の危機管理上、絶対に必要である。

 成田新高速鉄道のビジネスプランは、北総線が抱える「不都合な条件」から目を背け、自分たちに都合のよい条件だけで組み立てた「砂上のシナリオ」にすぎないのではないか。このシナリオは、極めてムシのよい、理不尽な想定を北総線沿線地域に押しつけ、ひたすら沿線地域が泣き寝入り≠キることを前提(あるいは希望的観測)に書き上げられた、脆弱で不当なシナリオ、ひとたび沿線地域が「NO!」と発したら、途端に行き詰まり、崩壊するほかないシナリオではないか。

 「砂上のシナリオ」をつぶさに観察していくと、北総鉄道をめぐる議論と利害の担い手がこれまでと逆転しつつあるという興味深い現象がみてとれる(図)。

 これまで、千葉県、京成電鉄、都市再生機構といった、北総鉄道の「中核的ステークホルダー」は、同社が経営破綻しないよう支える一方で、運賃値下げは不可能という同社経営陣の立場に理解を示してきた。巨額負債を抱える北総鉄道が最優先すべき使命は、2期線敷設に伴って生じた負債を返済することであり、そのために北総鉄道という会社を存続させることであった。

 しかし、成田新高速鉄道の事業化計画が具体的な進捗をみせるに至った現在、上記の立場に揺らぎが生じてきており、成田新高速をリーズナブルな(世間並みの)運賃で走らせることを優先するあまり、北総鉄道が抱える巨額負債という事情を無視するかのごときビジネスプランが作成され、皆がこのプランに沿って走り出そうとしている。

 中核的ステークホルダーたちにとって、当初から最優先のテーマは「成田新高速鉄道の実現」であり、北総鉄道も沿線地域もこのテーマを実現するための(使い捨て)道具の一つにすぎなかったと考えると、こうした中核的ステークホルダーの揺らぎ≠窿シのよいシナリオづくりがよく理解できる。

 中核的ステークホルダーからみると、沿線住民らの北総線運賃値下げ要求など「住民エゴ」「地域エゴ」の一種と映っていたのかもしれないが、いま成田新高速事業の具体化に伴って見えてきているのは、運行会社の「企業エゴ」であり、あくまでも「地元無視」のシナリオどおりに計画を進めようとする役人や政治家たちの「官僚エゴ」「保身エゴ」ではないだろうか。

 いまやわれわれ沿線地域の主張こそが、この問題での「正論」となりつつあるようにみえる。

 言うまでもなく、法律や経済原則は「正論」を主張し、実施する者の味方であるのが、法治国家の常である。いや、そうあってほしい。


[10]圧力なき対話では、展望を拓けない

(月刊 千葉ニュータウン2008年1月12日付所載)

あわれホクソーくん、一人敗け

 成田新高速鉄道事業での「線路(施設)使用料」のやり取り(入と出)をみると、なかなか興味深い仕組みになっている。

@空港第2ビル駅、成田空港駅を管理する成田国際空港鰍ヘ、5・9億の〈入〉だけ。

A成田空港〜土屋間の鉄道を管理する成田空港高速鉄道鰍ヘ、7・5億の〈入〉だけ。

B土屋〜印旛日医大間については、成田高速鉄道アクセス鰍ェ現在線路を建設中だが、1000億を越える巨額投資となるため、相当額の線路使用料が設定されることが見込まれる。

C成田新高速鉄道全線を運行する京成電鉄鰍ヘ、@およびAに対して計13・4億〈支出〉するが、北総鉄道鰍ェ払う小室〜印旛日医大間の線路使用料20億の〈収入〉でおツリが来る。とくに、成田新高速の開業前の数年間は、〈出〉は全く発生せず、北総鉄道からの20億の〈入〉だけ。

Dひとり北総鉄道だけが20億の純〈出〉。高砂〜小室間の線路使用料は(現在の事業計画では)〈入〉ってこない。

 麻雀にたとえると、ホクソーくんだけがハコテン、あわれ、ホクソーくんのカモネギ状態はどこまで続く・・・・!?の図だが、このゲームを丹念に観察すると、ホクソーくんの一人敗けは、麻雀の腕とかツキのせいではなく、あまりにもアンフェアで不透明なルールのせいであることに気づく。

 おことわりしておくが、これは『成田新高速鉄道の線路使用料』についての取り決めである。なぜ、北総鉄道だけが純〈支出〉状態になり、北総が京成(千葉ニュータウン鉄道)に払った線路使用料が成田新高速にまつわるすべての線路使用料を賄った上に、京成にはおツリが〈入〉るというようなことが起こるのか。なぜ? なぜ?

 さらにおことわりすると、北総が京成に払う線路使用料というのは、もとはといえばすべてわれわれ沿線利用者が払った運賃である。北総鉄道は、鉄道事業が唯一の事業、収入源なのだから。

 これまで北総線の運賃が高いのは、2期線(高砂〜新鎌ヶ谷)の建設費が巨額にのぼり、その巨額負債を償還していかなければならないため、と説明されてきたが、いつの間にか高額運賃は負債の償還以外のところに、それも北総鉄道が負担することには大きな疑問符をつけざるをえないところに大枚20億円も流れているのである。話が違いすぎやしないか。

おマエのものはオレのもの オレのものはオレのもの

 成田新高速鉄道の線路使用料の設定については、昨年12月7日の千葉県議会本会議で、印西地区選出の滝田敏幸議員が一般質問を行った。これに対する飯田耕一総合企画部長の答弁によれば、空港〜高砂間は、4つの区間に分かれて、それぞれの区間を4つの会社が線路を保有しており、それぞれの会社の成り立ちや、既に運行しているか、これから敷設される線路かといった状況を勘案して、線路使用料が設定されるのだという。

 また、小室〜印旛日医大間の線路施設を、なぜ北総でなく京成に払い下げたのかについて、都市基盤整備公団(現・都市再生機構)に質問したところ、次のような文書による回答を得た。

 『関係機関との協議の結果、今後の北総公団線については、京成グループの一体的な運営により、事業の安定的な経営を図ることが望ましいとの結論』に達したため、京成電鉄鰍ェ新たに設立する100%子会社である千葉ニュータウン鉄道鰍ヨ譲渡したとのことであった。

 しかし、千葉県幹部の説明も、都市再生機構の説明も、言っているそばから矛盾が露呈し、破綻していくような話で、説得力ゼロである。

 「すでに運行している路線か、これから建設され、運用される路線か」で線路使用料を払ったり、払わなかったりするのであれば、すでに何年も運行されてきた小室〜印旛日医大間を都市機構から150億円で払い下げられた千葉ニュータウン鉄道(京成電鉄)に北総鉄道が年間20億円も払う理由は存在しないことになる。

 建設中の印旛日医大〜土屋間が1000億円もかかるから、この区間はきちんと線路使用料をいただきます、というのなら、自慢じゃないが、北総鉄道の高砂〜新鎌ヶ谷間だって、まだまだ1000億近い債務が残っているのだから、立派な(?)「有資格者」なのだ(そんなこと自慢してどうする?)。

 小室〜印旛日医大間を北総でなく京成に払い下げた都市機構の説明に至っては、建前と実態を意識的に混同した、欺瞞と言う以外ない。

 京成と北総との関係は、建前としての「一体性」と、実態としての「独立性」が、時に応じて巧みに(露骨に)使い分けられてきているのであり、そのことに都市機構が、そして払い下げに立ち会った千葉県が気づいていないはずはない。

 都市機構が小室〜印旛日医大間の線路施設を払い下げる時には、北総も京成も「一体」という建前から京成に払い下げられたものの、ひとたび線路施設の管理権が京成に移った途端、それぞれ「独立」した会社間の商取引として、公団がこの線路を保有していたときと同じ20億円という線路使用料が北総に課せられる。

 ならば、(正真正銘、北総が保有している)小室〜高砂間についてはきちんと線路使用料が設定されるンでしょうな、という局面に至ると、そこは再び「一体性」の建前が幅をきかせて(「水くさいこと言うなよ、ホクソーちゃん」とかなんとか言われて?)、うやむやになってしまう・・・・。

 要するに、両社の関係は「おマエのものはオレのもの、オレのものは、やっぱりオレのもの」という、まさに古典的な騙しのテクニック以外の何者でもないのである。

 だが、忘れてならないことは、北総鉄道は京成電鉄だけの私有物ではないという事実だ。京成が北総の51%の株を握っているということは、逆にいえば、残り49%は他の株主が保有しているわけで、上記のような「一体性」と「独立性」の恣意的かつ欺瞞的な使い分けこそ、49%の株主の利益と第3セクターとしての公共性とを踏みにじっているといえないか。

野暮で不作法な飛び入り客

 高額運賃を払うことで事実上2期線の建設費を負担してきた、北総線沿線地域を尻目に、成田新高速が同じ線路を走行しながらこの負担を全く負わないという、現在のシナリオはおかしいという、素朴な疑問から本特集はスタートした。

 「成田新高速鉄道事業化推進に関する調査報告書」は、長い間高額運賃に苦しめられてきた北総線沿線地域のことを何も考えてくれていない、いわばわれわれ沿線地域が「泣き寝入り」することを前提に(期待して)作られた計画というしかない。言い換えれば、われわれが泣き寝入りせず、NO!と声を上げれば、たちまち立ち往生してしまいかねない計画ともいえる。

 しかし、われわれはたじろぐことなくNO!と言うべきである。

 成田新高速が北総線区間を「維持管理費」(アボイダル・コスト=列車が走ることにより増加する部分の費用)だけで通行しようとしている、今の計画は、次のようなエピソードにもたとえられる。

 《1人1万円の会費によるパーティがホテルを会場に企画される。何とか出席者が集まり、パーティは無事開催されるが、宴たけなわの頃、主催者の親戚だという1人の飛び入り出席者が現れる。彼は小1時間会場で知り合いとの談笑を楽しんだ末、帰り際に「自分は水割り1杯しか飲んでいないので」と言って、主催者に千円札1枚渡して帰ってしまう・・・・》。

 パーティは、料理や飲み物だけではない、会場のレンタル費、コンパニオンに払う費用、飾り付けの花代、招待状の発送等々、さまざまな経費が皆から集めた会費で賄われて開催されるのである。

 このような状況に飛び入りで参加して、自分が直接飲み食いした分だけ払えば十分だというような主張は、非常識なワガママと言われてもしかたなかろう。

 まして、このパーティの場合、多くの参加者から「だいたい会費1万円は高すぎる。この程度の料理なら5千円が世間相場ではないか」などと、ブーイングがあいつぎ、主催者が「何しろ、ここは会場がバカ高でして・・・・」と、汗だくになって弁明にこれ努めているのに、一人この自己チューの飛び入り参加者だけが・・・・。

図表10−2 問題解決へのロードマップ

対話と圧力

 やはり、成田新高速の運行会社にも「会場費」などを含めた「会費」を断固請求すべきである。

 問題は、われわれのパーティの主催者(北総)がこの飛び入りの親戚(京成)に頭が上がらず、きちんとした会費(線路使用料)を請求する気構えをみせていないことだ。

 しかし、はっきりしていることは第1に、北総が成田新高速(京成)からきちんと線路使用料を徴収しなければ、われわれが高額運賃で北総2期線の負債返済を支える期間がそれだけ長くなるということであり、第2には、北総が京成に対しては負債返済のための負担を求めないのであれば、われわれに対しても直ちに負担を免除しなければならないということだ。われわれは京成以上に、北総に対して恩も義理もないのだから。

 北総鉄道が、成田新高速(京成)に対して、われわれが負担しているのと同等の負担を反映した線路使用料を設定することを求める方法は、大きく「対話」と「圧力」とから成る。これまで沿線地域の自治体や住民運動がとってきた方法は、北総や京成に対する陳情や協議、あるいは県や国などに対して、北総鉄道に然るべき「指導」を要請するといったものに限られていた。

 しかし、この問題をめぐっては、沿線地域と北総や京成、千葉県などとの間に大きなミゾ、利害や関心の対立や隔たりがあることを認識する必要がある。陳情、要請、協議といった「対話」だけでは問題は解決しないことは、これまでの経緯から明らかである。

 とりわけ、われわれには高額運賃を押しつけながら、成田新高速(京成)に対してはきちんとした線路使用料を要求しようとしてない(当然手に入れることができる利益をみすみす逃そうとしている)北総鉄道に対しては、同社に出資している地元自治体は、株主の立場から断固とした主張、要求、「圧力」措置を講じていくべきである。

 北総鉄道の経営者が、われわれに対しては巨額の投資で敷設された線路を使用する者が当然払うべきコストとして高額運賃を押しつける(受益者負担)一方で、成田新高速鉄道の運行会社には、この負担を求めないとしたら、それは利用者(乗客)に対する裏切りであると同時に、会社(株主)に対する裏切りである。

 会社として当然獲得すべき(獲得できる)収益を放棄し、会社の経営を最悪の状態(債務超過)に陥れている巨額債務の早期償還のチャンスをみすみす逃すような経営者に対しては、株主からの徹底的な責任の追及(株主代表訴訟)があって当然だし、可能であれば、そのような経営者の怠慢、背任行為は株主が事前にチェックし、未然に防止すべきである(株主の差止請求)。

 こうした法的措置がとられることによって、北総鉄道の経営者は京成に対して安易な形で線路の使用を許諾することはできなくなるだろう。場合によっては、成田新高速の一番列車が走るタイムスケジュールに影響が出るかもしれない。たとえそのような事態が現出したとしても、われわれ沿線地域の行政や住民の責任ではない。

 線路を借りて列車を走らせようとする第二種鉄道事業者(京成)と線路を貸す用意のある第一種鉄道事業者(北総)との間で、線路の使用条件について、双方納得のいく合意が得られなければ、線路の使用許諾書にサインできないのは当たり前であり、そんなことは通常の取引の現場ではごくありふれた風景にすぎない。

 ここは法治国家であり、契約社会なのだ。成田新高速鉄道計画の円滑な進捗を希望・協力することと、ビジネス上の契約条件をめぐって慎重な協議を重ねることとは別の問題である。

 今のところ、第二種鉄道事業者は、第一種鉄道事業者のステークホルダーたちが納得できるような条件を提示する用意も意思もなさそうだが、ここはやはり一日も早く考えを悔い改めて、常識的でリーズナブルな条件を提示することで、円滑な一番列車の走行につながるよう、「大人の知恵と良識」を期待して、今後の推移を見守りたい。

タダより高いものはない
 都心から成田空港までを30分台で結ぶ、それもできる限り「安上がりに」、というのが、成田新高速鉄道計画の「事業コンセプト」のようだ。

 そのために、新規の投資を極力抑え、既存の施設やルートで利用できるものはすべて利用するという事業の進め方は、国・地方とも巨額の負債を抱え、経済の急速な伸びが見込めない時代にあっては、致し方ないというか、むしろ今後の公共事業のやり方として、一定の評価が与えられるものかもしれない。

 だとしても、沿線地域が長い間高額運賃で支え、いまだ巨額債務の償還が続いている北総線の施設を、一企業グループ内の力関係だけで、抜け駆け的に「タダ乗り」するようなことは許されるはずもない。

 沿線地域が払ってきたような高額の負担を「線路使用料」として払っていたら、成田新高速事業の経済性が損なわれ、JRの成田エクスプレスなどと競合できなくなるという事情はわかるが、それを解決するには「抜け駆け」的な振る舞いではなく、もう一度「原点」に立ち戻って検討するしかないだろう。

 「原点」とは、そもそも北総2期線(高砂〜新鎌ヶ谷)というのは、誰が保有・管理し、誰が建設債務に責任をもつべきハードなのか、という問題である。

 新幹線が走っても不思議はないような、走行区間のほとんどは高架またはトンネル、踏切は一ヶ所もない、カーブの少ない、かくも高規格の線路を、北総鉄道のような、資本金250億円程度の、ちっぽけな会社が単独で受け持たされ、(利用者の払う運賃だけで)巨額債務を引き受けてきたことが、そもそもクレイジーだったというべきである。

 2期線というのは、どうみても、半ば以上は成田新高速計画あってのルートであり、仕様としか思えない。少なくとも、2期線敷設に携わったプランナーや設計者の頭の中に、未来の成田新高速鉄道のイメージが相当大きな比重を占めていたであろうことを想像しないわけにはいかない。

 本来であれば、成田新高速の計画が具体化した段階で、「本家筋」(たとえば、2期線を建設した鉄道・運輸機構)がわれわれの前に進み出てきて『北総鉄道と沿線地域の皆さん、長いことご迷惑をおかけしました。あとはわれわれの責任で引き受けますから、皆さんは快適な通勤電車の運行に専念し、北総鉄道と沿線住民が力を合わせて、良い地域づくりをしてください』くらいの挨拶とともに、「本家筋」に引き取られていくべき線路ではないか。

 そして、「アボイダル・コスト」の考え方は、北総鉄道と沿線地域にこそ適用されるべきだと思う。北総鉄道と沿線利用者は「通勤電車を走らせることによって発生する限界コストのみ」を負担し、線路施設全体の管理は「本家筋」の責任で行う。それが、首都圏での通勤電車という機能と、都心と成田「国際」空港を結ぶ高速鉄道としての機能を併せもった、この路線での正常で合理的な役割分担ではないだろうか。

 成田新高速の事業化計画も、そのような「原点」から再出発することが、遠回りに見えて、またコスト高に見えるかもしれないが、結局はそれが王道であり、国際空港「ナリタ」へのアクセス整備の大前提であろう。

株主代表訴訟
 株式会社において株主が会社を代表して取締役監査役等に対して法定責任を追及するために提起する訴訟(商法第267条、会社法第847条)。
 通常、株式会社においては取締役会が会社の意思決定を行ない、また取締役の職務執行を監督する。しかし、取締役間の馴れ合いによって取締役の責任追及がなされない恐れがある。また、会社が取締役の責任を訴訟によって追及する場合には、監査役が会社を代表するものと定められているが(株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律における小会社の場合を除く)、監査役も会社内部の人間であるため、取締役との個人的な関係などからこれを怠る可能性も考えられる。このため、株主が会社に代わって取締役の責任を追及する訴訟を提起できるようにしたものである(民事訴訟における法定訴訟担当の一種)。

株主の差止請求
 株式会社の株主が取締役の違法行為や定款に違反する行為などを事前に差し止めるための制度。違法行為等の差止請求権は株主代表訴訟と同じく、株主による会社経営の監督に寄与する。
 会社法では「株主による取締役の行為の差し止め」と表現されている(会社法360条)。取締役が会社の目的の範囲外の行為または、法令もしくは定款に 違反した行為をしている・するおそれがある場合に、それによって会社に『著しい損害/回復することができない損害(※)』がおそれがあるときには、株主は その行為の差止めを請求できる。(※会社が監査役設置会社・委員会設置会社であるときなどは、回復することができない損害、が必要になる。それ以外の会社は著しい損害でよい。)。
このとき、会社にもそれを差し止める権限が当然あると考えられている。しかし経営陣の暴走を会社自身が差し止めることが期待できない場合もあり、そのため商法272条/会社法360条はそうした取締役の行為を差し止める権利を株主に与えている。この制度を株主の差止請求という。

(「ウィキペディア」より)


[11]千葉ニュータウン鉄道(旧公団線)にみる不透明な[関係」(下)

(月刊 千葉ニュータウン2008年4月12日付所載)

マジック トリック ムシリック

 北総線区間のうち、小室〜印旛日本医大間については、京成電鉄の100%子会社(ペーパーカンパニー)である「千葉ニュータウン鉄道」が線路施設を保有し、北総鉄道はここに線路使用料を支払いながら、列車を走らせている。

 この場合の線路使用料について、最近さらに興味深い、驚くべき事情が判明した。

 それは、小室〜印旛日医大間については、北総鉄道が列車を運転してあげる運賃収入をそっくり千葉ニュータウン鉄道に納めているというのである。

 もともとは、平成12年3月北総鉄道と都市基盤整備公団(当時)との間で、小室〜印旛日本医大間の「鉄道施設及び車両の使用料」について『都市基盤整備公団鉄道区間の運輸収入相当額を使用料とする』と取り決められたものだが、その契約が平成16年にこの区間の線路施設が公団から京成電鉄100%子会社の千葉ニュータウン鉄道に移管された後も、現在までずっと引き継がれているのである。

 北総鉄道は、線路の保守作業をやったり、列車を運転する人件費などを実費で千葉ニュータウン鉄道から受け取るが、要するに、小室〜印旛日医大間、列車の運行にあたる、鉄道会社としての「旨み」は、すべて千葉ニュータウン鉄道を通じて、その親会社の京成にもって行かれてしまう、その代わりに北総が手にするのはいわば「ご苦労賃」「お駄賃」だけという、露骨きわまる不平等条約≠ェ結ばれているのである。

 この不平等条約≠ノついて、北総鉄道の説明を聞く。

 小室〜印旛日医大間の線路使用料について、北総と千葉ニュータウン鉄道(以下、本文では「CNR」と略す)との間での線路使用料や運行業務経費等をめぐる支払い関係を整理したのが、図表11−1である。

 これにみるように、北総からCNRへ運賃収入全額が「線路使用料」として支払われ、逆にCNRから北総へは「負担費」という名目で線路や車両の保守経費、乗務員や駅員などの人件費などが支払われる。また、車庫使用料が北総からCNRへ支払われる。

 この結果、CNRから北総への「ペイバック」の額は18年度で9億7700万円となっている。

 小室〜印旛日医大間の線路使用料について、このような支払関係が取り決められた経緯について、北総では別添資料のような説明を行っている。


北総鉄道とCNRとの線路使用料等の支払関係(北総鉄道の説明)
【歴史的経緯についての説明】
○昭和59(1984)年3月、小室〜千葉ニュータウン中央間が開業(住宅・都市整備公団が県から免許を取得して、自前で鉄道事業を実施)。
・列車運行、駅業務、鉄道施設・車両の保守業務は北総鉄道に委託し、公団は業務委託費を北総に支払う。
○昭和61(1986)年、鉄道事業法の改定により、第1種〜第3種の鉄道事業区分が定められ、小室〜千葉ニュータウン中央間については、北総鉄道が第2種鉄道事業者として都市公団より施設を借りて運行することに。
・公団からは、受託費(施設、車両の保守管理経費)、負担費(駅、運転等の輸送管理経費)として、公団線区間の運営経費を北総に支払う。
・運賃収入については、鉄道施設、車両等の使用料として運輸収入相当額を線路使用料名目で北総から公団へ支払う。
・上記については、公団線区間の負債を北総に負担させないための処置、よって北総は公団線区間について、経営リスクを負っていない。
○平成12(2000)年
・従来の受託費と負担費を合わせたものを「負担費」と取り扱うことになる。
・従来、公団の交通部が投資的な部分は自前で発注・実施し、日常的な保守業務を北総に委託してきたが、大規模修繕、投資工事についても、北総へ委託することに。
・負担費は、営業キロ比、列車走行キロ比、車両数比、駅数比などの合理的な按分率を使い、北総・公団線でかかった経費を按分して算出した金額を公団から北総へ支払う。
・ 上記の投資的経費というのは、駅、変電所等の増改築や機器更新、車両の新造・改造などのほか、営業機器(券売機、精算機、自動改札機)更新・改造、およびこれらの機器のソフト改造、駅のバリアフリー化(スロープ、エレベータ、身障者用トイレ等の設置)、駅や高架橋脚の耐震補強工事などが該当し、施設の経年劣化、時代の要請や旅客サービス向上のため、これら投資への費用負担は年々増加しており、北総、千葉ニュータウン鉄道ともに、経営を圧迫する要因となっている。
○ 平成16(2004)年2月、都市機構の組織変更に伴い、公団鉄道を千葉ニュータウン鉄道鰍ヨ売却。北総がこれまで公団と結んでいた諸契約については、ほぼすべてそのまま千葉ニュータウン鉄道が継承。
○ 千葉ニュータウン鉄道区間3駅(千葉ニュータウン中央、印西牧の原、印旛日本医大)駅構内営業権は、千葉ニュータウン鉄道より北総鉄道が譲り受け(無償)、北総鉄道の収入となっている。
【総括説明】
○小室〜印旛日本医大間の運行については、公団経営時代からの巨額の負債があるため、北総にそのリスクを負わせないための措置として、京成電鉄100%出資の千葉ニュータウン鉄道が経営することにより、結果的に京成がリスクを負っている。
○「運賃収入相当額を線路使用料と設定する」取り決めについては、千葉ニュータウン鉄道が北総に運営費として負担費を支払うことにより、北総鉄道に千葉ニュータウン鉄道区間のリスクを負わせない措置である。
○ 現行の線路使用料契約については、千葉ニュータウン鉄道と北総間のものであり、成田新高速鉄道開業後の線路使用料については、関係者間で新たな協議がなされる。

(北総鉄道が作成)


引き継がれたリスク?

 北総鉄道は、この説明の中で小室〜印旛日医大間の運行は公団経営時代から大変なリスクを伴っていたという点をしきりに説明している。この区間の線路施設を京成電鉄が都市公団(現・都市再生機構、以下「UR」と略称)から継承したのは、北総にリスクを負わせないための措置であったというのである。

 本特集では、先に小室〜印旛日医大間をURが北総ではなく、京成に「払い下げ」たのは、北総の健全な資産形成のチャンスを京成が150億円ぽっちで「横取り」したのではないかとの疑いを提示しているが、今回の北総の説明は、こうした見方を真っ向から覆し、京成はチャンスどころか、北総に代わってリスクを引き受けたものだとしている。不平等条約℃ゥ体が、京成の北総に対する、大変な温情≠セというのである。

 本当か?

 北総の説明をアタマからウソ呼ばわりするわけではないが、実際には極めて不自然な、にわかには信じがたい事態が起きていることを無視するわけにはいかない。

 図表11−2は、北総線全区間を北総が自前の線路をもち運行も行っている第1種区間(高砂〜小室)と、CNRから線路施設を借りて運行している第2種区間(小室〜印旛日医大)に分けて、収支をみたものである。

 北総の運賃収入のほとんど、そして営業利益のすべては高砂〜小室間で稼いでいることがわかる。

 距離でみると、高砂〜小室間19・8キロ、小室〜印旛日医大間約12・5キロだから、前者は後者の約1・6倍にすぎない。それが、運賃収入では約5・8倍、営業利益では前者だけで約45億円(18年度)稼いでいるのに対して、後者はゼロである。

 あまりにも不自然である。

 しかも、高砂〜小室間は、あの巨額負債を抱えている2期線区間(高砂〜新鎌ヶ谷)を含むのである。北総は、今までこの区間の巨額負債を経営上の最大の難問にあげて、運賃値下げができない、絶対の理由としてきた。

 小室〜印旛日医大間について、「公団経営時代からの巨額の負債がある」というが、京成がURから取得した対価は、たったの150億円、対して高砂〜新鎌ヶ谷間の建設費は約1200億円もかかり、それを全額北総が引き受けてきたのである。

 それでもって、いまや高砂〜小室間の営業利益が45億円、小室〜印旛日医大間はゼロ円、ですか。

 だったらこれまでの「2期線の巨額負債を抱えてるのに、運賃値下げなんてできるわけないっしょ!」という北総の説明はいったい何だったンだろう。

CNRルールこそ鉄道経営の救世主

 北総の説明に不信感が拭いきれない理由がもう一つある。そしてこれこそ最も重要なポイントである。

 本紙の記事を読んだ読者が北総のホームページに問い合わせたのに対して、北総が説明用に作成した「線路使用料に関するインターネットの苦情への対応」という文書がある。

 この文書には、次のような記述がある。

 『現在のルールは、「千葉ニュータウン鉄道鰍フ累積赤字が解消するまでの間」のルールですから、ニュータウン人口が増え、運賃収入相当額である「線路使用料」が千葉ニュータウン鉄道鰍フ費用を上回って累積赤字が解消されれば、当然、新しいルールが必要になりますが、それまでの間の「線路使用料」の見直しについては、信義に反するものであり困難なものと考えております。』

 ここでいう「現在のルール」とは、「北総はCNRに線路使用料として運賃収入相当額を支払い、一方で列車の運行や駅の運営等の実費を「負担費」として受け取る」というルールであり、これをCNRの累積赤字が解消するまで続けることが「信義」を全うするものだと説明している。

 一方で北総は、成田新高速鉄道が開通する段階ではこのルールを廃止し、全く新しいルールに基づいて線路使用料等を決める方針であると言っているのである。

 長い間高額運賃についての北総の説明を聞いてきたが、説明を支える論理が突然ひっくり返ることがある。

 2期線の巨額負債などで経営が大変だ、運賃値下げなど絶対にできないという主張ばかり聞かされ、いい加減GKA(グチは聞き飽きた)状態になったところで、成田新高速の線路使用料は維持管理費のみで済ませるようなことをヌケヌケと言ってくれる。線路の敷設費が巨額に上ったから運賃が高いというのなら、成田新高速にもわれわれと同じ負担を躊躇なく課すというのが道理である。

 相手が変わると、今までわれわれに言ってきた理屈と180度逆の理屈を言い出す「北総流」が、いまひとつ説得力に乏しい所以である。何が、「信義」なンだか!

 今回のCNRルールについての説明も、全くこれと同じパターンで、またもや「論理のバック転」を起こそうとしているようにみえる。

 「累積赤字が解消されるまでの間、CNRに線路使用料として運賃収入相当額を支払う」ことで、CNRの赤字を解消していき、重い経営リスクを払拭する――、素晴らしいじゃないですか。ぜひ、成田新高速開通後は、北総と成田新高速との二人三脚で、この気高くも美しいルールを貫徹すべきでしょう。そもそもルールというものは、一対一よりも、複数のプレイヤーが参加することで初めて有効性や普遍性が確認されるものなンですから。

 これこそ、日本的な「相互扶助」「思いやり」「困った時はお互い様」の精神にあふれたルール、21世紀日本の鉄道会社の範ともなりうる、素晴らしい可能性を秘めたルールと呼ぶべきではないか。公的支援体制でゴテゴテに固めてスタートした「つくばエキスプレス」方式など、このCNRルールに比べればすでに時代遅れ、20世紀の遺物といえるかもしれない。

 だいたい、成田新高速が開通することと、CNRの累積赤字が解消することは直接には何も関係ないのだから、この素晴らしいルールを成田新高速の開通とともに撤廃するという説明には、説得力がなく、そんな話、CMA(超マジありえない)。一企業グループのEGM(エゴ丸出し)の匂いプンプンである。

2期線区間にこそCNRルールの適用を

 むしろ、成田新高速の開通とともに、この素晴らしいルールを高砂〜小室間にも適用すべきであり、それで永年の懸案はすべて解決できるのではないか。

 というか、今回CNRルールを吟味していて気づいたのだが、北総の2期線(高砂〜新鎌ヶ谷)も、事実上このルールが適用されていたのだと考えると、がぜん事態がわかりやすくなるのである。

 小室〜印旛日医大間でのCNR同様、高砂〜新鎌ヶ谷間では、鉄道・運輸機構(JRTT)が事実上線路施設を保有し、北総は運賃収入相当額を線路使用料として納め、運行にかかった人件費や保守費、一般管理費などをJRTTから「ペイバック」される、そしてこの状態は2期線の「累積赤字が解消されるまで」続く、これが実態だといえば、すごくわかりやすい。

 だから、北総は沿線住民からどんなにしつこく運賃値下げを要望されても、何一つ自主的に判断できる術をもたず、その他のさまざまな局面でも経営の独立性や自由度はおそろしく狭められているのではないか。「運賃値下げなどしたら、われわれ経営陣による会社への背任行為になる」との北総経営者の反論は、こうした状況への悲痛な叫びのように聞こえる。

 小室〜印旛日医大間はCNRが第3種鉄道事業者であるように、高砂〜小室はJRTTを事実上の第3種鉄道事業者と“見なし”、成田新高速開通後は、両区間とも成田新高速と北総鉄道が線路を借りて走る。両鉄道会社とも、事実上の線路保有者に「累積赤字の状況などを十分考慮した」線路使用料を払う――、こうすることで北総線の高額運賃も、成田新高速開通後の線路使用料も、そして成田新高速の経済性の問題も、北総鉄道の自立的発展への道も、すべて片がつくのである。

京成も北総も「応分の負担」を

 成田新高速の線路使用料問題について、つい最近北総鉄道の関係者のスタンスが変わった。

 「北総鉄道の線路敷設費用について、京成電鉄に応分の&薗Sをさせる」という言い方を、はっきりと口にするようになったのである。少し前までは、こういう言い方はしなかった。

 2市2村で構成する「北総線運賃問題対策協議会」や地元選出の県議、国会議員らがこの問題での公平負担などを求める動きを活発化させたため、さすがに以前のようなスタンスは変えざるをえなくなったと思われるが、非常に前向きで評価できる傾向である。

 「応分の負担」、まことに結構ではないか。

 成田新高速も北総も、JRTTを線路施設保有管理者に見立てて=A過去の線路敷設費用に対して「応分の負担」をするのが、唯一の正しい解決策だと思う。「応分」の具体的な額については、成田新高速の運行会社である京成の意向に沿って決定し、それに北総も「右へならえ」すればいい。

 現在北総はJRTTに年間60億円ほど借金の返済(事実上の線路使用料)を払っている。仮に、京成も「応分の負担額」として60億円払うと言ったら、両者で年間120億円ずつJRTTに返していくから、償還期間(北総の「年季明け」)は半分に短縮される。京成が、成田新高速の経済性を考えて、30億円しか出せないと言ったら、両者で60億円、いや、20億円だと言ったら、両者で40億円ずつ返済していけばいい。

 北総の年間「負担」額は、現在の60億よりも少なくなる可能性が大きいが、そうして浮いた分は全額運賃値下げに充てるべきだ。京成が払うのが「応分の負担」だとしたら、それを超える額は「過分の負担」ということになり、今までずっと沿線住民は「過分の負担」のための高額運賃を払ってきたことになる。本来なら、これまで「過分に」払ってきた分を過去にさかのぼって返してほしいくらいだ。

 現在北総が払っている負債償還額と同額の負担を成田新高速を走らせる京成に求めるという、このアイディアに反論する向きには、逆に質問するが、そもそもJRTTへの負債は北総だけに責任があるような性質のものなのか、なぜ沿線住民が払う運賃だけでこの巨額負債をこれから先もずっと返済していかなければならないのか。過去の投資で敷設された線路を北総と成田新高速とで共同で利用する状況下で、両者の負担に差を設けなければならない、どんな理由と根拠があるというのか。

 JRTTが敷設した線路をこれからは2社で使うということは、否が応でも一定の「市場原理」が導入されることを意味する。今までは、沿線住民が「運賃が高い」(JRTTへの負担が重すぎる)と言っても、比較の対象がなかったが、今後は「成田新高速」が経済的に成り立つか否かという、格好の秤≠ェ機能する。

 年間60億円もの「負担」を払っていたら、成田新高速の経済性が成り立たないと、京成が言った時、初めて沿線住民がこれまで主張してきたことの正当性が客観的に立証される。そう、われわれはそもそも経済性など成り立ちようのない「負担」を強いられてきたのだ。経済性が成り立たないからこそ、子供が高校生や大学生になると、通学費の重さに耐えかねて、都内などに下宿させる(学徒疎開もしくは離散家族)、あるいは一家ごと余所へ引っ越してしまう(脱北者)といった悲劇が繰り返されてきたのである。

 過去に投資した線路敷設費用の公平な負担を実現する、上記のルールを実施することによって、JRTTの債権回収計画は変更を余儀なくされるが、それを調整するのは「政治」の役割になる。


[12]2つの反省 2つの実行

(月刊 千葉ニュータウン2008年8月9日付所載)

2つの反省

 「成田新高速鉄道開業と北総線高運賃」問題がだいぶ煮詰まってきたという感触を、関係者の話ぶりから得ることが多くなった。
ここで問題点をもう一度整理しておきたい。

 北総線高額運賃をめぐっては、2つの当事者グループがそれぞれこれまでの行動軌跡を反省するとともに、成田新高速鉄道開業という新たな事態を迎えて、新しい行動原則を確立する必要があると考えられる。

 第1のグループは、国、県、沿線自治体、UR(都市再生機構)などの公的セクターである。

 彼らには、北総鉄道の事業基盤の脆弱さに十分気がついていながら、問題が起こっても対処療法あるいは小手先の延命策で済ませてきた「怠慢」を深刻に反省してもらう必要がある。運賃の問題だけでなく、北総鉄道は千葉ニュータウン地域の発展の鍵を握る、この地域の大動脈、まちづくりの背骨を司る、最も重要な事業体であるにもかかわらず、その使命を果たすための必要にして十分な事業基盤を整えることに、国も県も沿線自治体もあまりにも無頓着、他人まかせであったことは否定しようがない。

 第2のグループは、北総線を運営する北総鉄道鰍ニ同社の最大株主・京成電鉄鰍ナある。

 北総鉄道は、自らの経営体力からいって到底無理な負担を文句も言わずに引き受け、結果的にそれをすべて沿線利用者に高額運賃という形でしわ寄せしてきたことに対する「反省」を念頭に置いて、これからの議論に参加してもらう必要がある。

 北総鉄道はヒラメ組織というか、「上」(官)に弱く、「下」(民、地域)の犠牲を顧みない体質があるのではないか。

 高額運賃の理由として、千葉ニュータウン事業の失敗による沿線人口の伸び悩みをあげるのであれば、われわれ沿線利用者に高額運賃を押しつける前に、千葉県やURを相手どって損害賠償訴訟の一つやふたつ(パフォーマンスでもいいから)起こしてみせるべきだった。

 さらに、1200億円もの巨額投資で敷かれた2期線を、資本金250億ぽっちの赤字企業がまるごと引き受け、しかも当初は25年償還という条件をすらそのまま飲んで、高額運賃による収入を借金返済に充てるなど、沿線利用者に高額運賃を押しつける結果になることが分かり切っているのに、「上からの」要請はすべて、無抵抗に受け入れてきたといえる。

公的支援はストック部分へ

 「成田新高速鉄道開業と北総線高運賃」問題の解決のためには、以上2つのグループが、上述の2つの反省に基づいて、それぞれの「任務」を遂行してもらわねばならない。

 第1のグループ(国、県、沿線自治体、UR)は、北総鉄道の経営基盤の抜本的強化(出資、増資)に全力をあげて取り組むべきである。この面で公的セクターが果たしてきた役割は、東葉高速、つくばEXなどと比較しても問題にならないくらい低水準である(表12−1)。
 
 たしかに、千葉県をはじめとする公的セクターは過去に3次にわたる北総鉄道への支援を行うことで、同社が重い負担に耐えかねて破綻するのを防いできたが、その多くは人間の健康にたとえれば救急・延命治療的なもの(フロー部分への支援)であり、北総鉄道が求められている社会的使命を果たしていけるだけの力強い経営基盤を築くには至らなかった。

 今後、千葉県や沿線自治体などは、北総の経営基盤を盤石なものにするための出資や資本金の積み増し(ストック部分の強化)に目を向けるべきであろう。

 第1に、ストック部分への強力な支援は、もともと北総鉄道の場合極端に脆弱だったわけだから、千葉県や沿線自治体の交通政策全般からいってもコンセンサスが得やすい。

 第2に、県はこれまで言ってきた、高額運賃是正のための公的支援はやらないという立場からいっても、ストック部分への支援であれば整合性がとれる。

 沿線自治体も、たとえば印西市や白井市の出資額は、、松戸や市川などと比べても話にならないくらい小さく、この鉄道からの受益と負担の観点からも大幅に見直す必要があろう。たとえば、現在通学定期補助で負担しているお金を、もう5〜10年間程度出し続けて、それをそっくり北総鉄道の資本金積み増しに充てるくらいのことは考えられないのか。北総鉄道という会社は、これから素晴らしい発展の可能性を秘めており、地域でこうした会社の経営に積極的に参画するという発想があってもよいのではないか。

負担軽減分はそっくり運賃値下げに

 一方、北総鉄道はこのところ、成田新高速鉄道開業後は、その運行会社(京成電鉄)に過去の線路敷設費用について「応分の負担」を求めることを明言するようになった。これは明らかに大きな前進だが、問題はこの「応分の負担」分が運賃値下げに回らないと、この間の議論がほとんど無意味だったことになる。

 われわれ沿線利用者は、高運賃の理由として、2期線の線路敷設投資が巨額にのぼり、それによる巨額の借金が経営を苦しめているという話をさんざん聞かされてきた。このたび、同じ線路を使って成田新高速を走らせる京成電鉄にも「応分の負担」をしてもらうことになったということは、つまり、「高額運賃なむなし」の理由の大きな一角が崩れたのであるから、まずばその分高額運賃は下げてもらうべきであろう。そうでなければ、今までの説明が信用に値しないものだったことになり、地域鉄道会社と沿線利用者との信頼関係は崩壊する。

 北総鉄道としては、沿線利用者と信頼関係以上に、現在の債務超過状態を解消することを優先したいという気持ちはわかるが、そちらは県や沿線自治体、URなどの出資などで、経営基盤そのものの強化充美をもって解決していくしかないだろう。巨額投資による鉄道・運輸機構への償還義務を一人で引き受け、極めて不十分な公的支援のもとで、何でもかんでも沿線利用者にしわ寄せしてきた「歴史」には終止符を打ってもらわねばならない。

 〈参考〉鉄道・運輸機構に対する債務償還条件の比較(北総鉄道と東葉高速鉄道の場合


[13]北総線は誰のものか

(月刊 千葉ニュータウン2008年9月13日付所載)

「最大株主」の出方が焦点に

 前号で、千葉県をはじめ沿線自治体にとっては北総鉄道への「出資」(ストック部分への注入)が、問題解決の第一歩と述べた。

 ただその場合、そうした出資の上乗せを最大株主の京成電鉄が果たして受け入れるかという問題が残る。大方の見方では、北総鉄道の資本金の51%を出資している京成電鉄が現状の変更を受け入れることはないだろうというもので、このケースに限らず、一般に株式のマジョリティを握っている株主がそう簡単にその座を明け渡すはずはない。

 運賃問題解決の一過程として、県や沿線自治体の「出資」上乗せが検討されたものの、肝心の最大株主からの合意が得られない見通しだとするとどうなるか。

 最大株主の「NO」を踏まえて、解決策を探っていくしかない。

 北総鉄道は公益事業であり第三セクターだから、県が最大株主になるべきだといって、無理に(政治的に)株主構成を変えることはできないし、やるべきではない。ただ、そこで京成が引き続き北総の最大株主として支配権を維持していく意思があること、将来、北総が鉄道・運輸機構に負っている約1000億の負債の償還が進んだ段階で、京成―北総の一体化による、より効率的な運営という方向について、県や沿線自治体とともに確認しておく必要がある。

 この確認によって、現在高額運賃(だけ)で償還が行われている北総二期線とその負債の性格がはっきりするからだ。

 京成が北総のマジョリティを手放すつもりがなく、将来北総の負債残高が合理的な水準まで減った段階で、北総を吸収合併する含みだとすれば、北総二期線は将来的に京成のものとなり、現在北総が鉄道・運輸機構に払っている返済額は、二期線の所有者が支払う「住宅ローン」みたいなものと考えられる。

 こうしたことを考慮に入れて、鉄道・運輸機構への元本支払が年間約60億、北総の売上高の約半分を占めるという事態を見直していけば、自ずと「解」は見えてくるだろう。

 成田新高速開業後、京成が北総に支払うのは「線路使用料」などという他人行儀のものではなく、北総の鉄道・運輸機構への元本支払の一部を京成が負担するという性格のものでなければならない。いずれ京成のものになる資産のローンを返していくのだから、当たり前の話である。

 成田新高速開業後、二期線の線路敷設費用は、現に通勤・通学その他の生活利便のためにこの鉄道を利用している沿線利用者と、将来この線路の所有者となる京成とが、それぞれ「応分の負担」によって償還していくというのが、唯一の正常なあり方ということになるだろう。

償還ペースの緩和も視野に

 北総鉄道は、鉄道・運輸機構に対して、年間元利合わせて約60〜71億円(19年度以降)、平成38年度まで償還していかなければならない。19年度末の償還残高見込みは約869億円となっている。

 今までこうしたことが大前提となって、「このような厳しい状況だから、運賃値下げはできない」という理屈が立てられてきた。しかし、成田新高速開業後はこの償還は京成との二人三脚で果たしていくことになる。
その場合、上記の論理の逆転が起こる。

 「償還残高約900億円を平成38年度までに返済していくのだから、毎年の返済額は60〜70億円(だから、高額運賃やむなし)」という論理は成り立たなくなり、「成田新高速鉄道がJRなど他の成田乗り入れ線との競争力をもつためには、北総二期線敷設費用(鉄道・運輸機構への償還)として、最大年間○○億円の負担が限度」という計算が先にきて、そこから京成が北総に支払う「応分の負担」額が決まってくる。

 仮に、上記のような条件のもとで京成が北総に支払うことのできる「応分の負担」が年間20億円だということになったら、残りの40億(60ー20)を北総が鉄道・運輸機構に払っていく(高額運賃のままで)というのはおかしい。最終的に京成のものになる線路だったら、北総の運賃収入から支払われる償還額は、最大でも京成の負担額までではないか。

 すると、60億ずつ支払うはずだった鉄道・運輸機構への償還額が40億に減ってしまうが、そうなったら償還期間を延長すればいい。現に、東葉高速鉄道は、60年という償還期間を設定しているし、北総鉄道もP線方式の償還期間と決められている25年を途中で35年に延長した経緯がある。

 償還期間35年を固定的にとらえて、今後平成38年まで年間60〜70億ずつ償還していく、「だから運賃値下げは無理」という理屈は、成田新高速開業で同じ線路を京成も使うようになることで破綻せざるをえなくなっているのである。

 京成は成田新高速の経済性の観点から、北総は利用者に高額運賃で迷惑をかけないという観点から、それぞれ運賃収入の中から、鉄道・運輸機構への償還に振り向けられる額を算出して、それをもとに償還期間を設定し直すことが必要になっている。

 そして、償還期間の設定のような問題でこそ、国、県の指導力、調整力が発揮される。また、償還期間の延長による金利負担の増加については、東葉高速鉄道やつくばEXなど後発鉄道での進んだ℃x援策を参考に、県や沿線自治体が自らの問題として考え、取り組むべきだろう。

当地域の発展は民間活力で

 前に、北総鉄道は公益事業であり第三セクターだから、県が最大株主になるべきだといって、無理に(政治的に)株主構成を変えることはできないし、やるべきではないと書いた。

 その理由は、これまで書いてきたことに加えてもうひとつ、県や沿線自治体が最大株主になり、北総鉄道を完全な第三セクターあるいは地域会社のような形で運営していくことが本当に地域のために良いことなのか、疑問に思われるからである。

 高額運賃ということが、絶えずわれわれの目の前にぶら下がり、われわれの意識がそれにとらわれてすぎているきらいがあるが、一方で、北総鉄道という会社とそこが運営する北総線は、これだけの高規格の鉄道をわれわれに提供してくれ、しかも営業利益率30%超という、素晴らしい経営効率を達成してきた。

 数年前から決算は黒字が続いているのに運賃を下げないといってよく批判されるが、黒字が続いていること自体は結構なことである。

 このような素晴らしい成果がどのように生み出されてきたかを考えると、京成電鉄グループとしての一私企業(最終的には誰も助けてくれない、自己責任・自助努力の世界)で頑張ってきたことと無縁であるということはありえない。都心と千葉ニュータウンを結ぶ鉄道事業という、まだまだリスキーで、おまけに「つくばEX」などのように手厚い支援策が施されたわけでもない状況で、北総鉄道は過酷な経営を強いられてきたのである。

 こうした素晴らしいパフォーマンスが、県や沿線自治体がマジョリティを握る形態になった場合、引き続き維持されるか、非常に疑わしい。

 「親方日の丸」からは、流石に脱皮しているかもしれないが、それでもよくある「寄り合い所帯」の企業体のように、ぬるま湯的で無責任な社風がはびこり、これまで北総の経営者と社員が爪に灯をともす思いで積み上げてきた財産が次第に食いつぶされていくのがオチではないか。

 何よりも、40年近くかけて当初計画された34万人都市の4分の1にも満たない人口規模にとどまっている千葉ニュータウン事業を手がけた千葉県にそれを託すというのは、やはり無謀、不信の感が拭えない。

 最近の牧の原地区での大型商業施設の進出もそうだが、長い間低迷してきた千葉ニュータウン事業が、民間が進出しやすい「定期借地」といった制度を導入したとたん、一気に活発化した例でも示されているように、平成25年度の千葉ニュータウン事業収束後のこの地域のまちづくりの主役はやはり「民間」になるべきではないか。

 債務超過が解消された北総鉄道を一体化させた京成電鉄が順調に社業を伸ばしていくことがこの地域の発展につながる、それが地域としての最大の発展戦略になるのではないか。


[14」線路敷設費用負担についての公正さを

(月刊 千葉ニュータウン2009年3月14日付所載)

成田新高速は、北総2期線建設費を適正に負担すべし

 北総線の高運賃問題への対応と成田新高速鉄道開業への調整がいよいよ大詰めの段階を迎えているようだ。

 そうした状況を踏まえて、沿線2市2村で構成される「北総線運賃問題対策協議会」は、ホームページに「成田新高速鉄道開通後の線路使用料のやり取りについての整理」とする記事を掲載している。

 ホームページは、本紙もずっと主張してきた「北総2期線の建設費(北総が返済し続けている債務)は、この線路を使用する事業者や利用者が公平に負担すべき」という、この問題で最も重要なポイントについて、的確に、わかりやすく整理したものである。

 そこで、事態が大詰めを迎えた今、あらためて「成田新高速鉄道開通後の線路使用料」問題をここで整理しておきたい。

 基本的なポイントとして、本シリーズで繰り返し書いてきた以下の点が議論の出発点になる。

@北総鉄道は売上約130億円のうち60億円以上を鉄道運輸機構への借金返済(2期線の建設費)に充てており、これが北総線の高額運賃の主たる要因である。

Aこの同じ北総鉄道の線路を走ることになる成田新高速鉄道は、上記の建設費を負担せず、「維持管理費」(アボイダル・コスト)のみを支払うとのシナリオが進行しようとしている。

     


合理的な説明なき不公正

 成田新高速鉄道は、鉄道を走らせるのは京成電鉄1社だが、線路施設の方は、区間ごとにさまざまな事業者が保有する形態となっている(図14―1)。こうした上下分離方式の路線では、鉄道を走らせる事業者(第2種鉄道事業者)は、線路保有者(第1種または第3種鉄道事業者)に対して線路使用料を支払って営業する。

 そして、線路使用料は通常、列車が通行することによって発生する直接的なコスト(アボイダル・コスト=維持管理費)と、線路施設の建設費の償還部分とで構成される。

 問題は、現在建設中の区間の線路施設(印旛日医大〜成田空港間)については、維持管理費と建設費の両方が支払われることが当初から想定されているのに対して、現在すでに北総線として運用されている高砂〜印旛日医大の区間については、千葉県が作成した報告書(「成田新高速鉄道事業化推進に関する調査」、平成13年3月)でも北総鉄道に支払われるのは「維持管理費」のみ、線路敷設費については考慮されていない。その後も事業者や県がこの問題を真正面から取り上げて、真剣に検討したフシはみられない。

 しかし、北総鉄道の経営者は、これまで運賃値下げを要請する沿線住民や自治体関係者に対して、2期線の建設費負債による債務超過状態で運賃値下げなどに応じたら、経営者が「株主代表訴訟で訴えられてしまう」といった反論を繰り返してきた。

 そのような苦境にある北総鉄道にとって、成田新高速鉄道開通という事態は現在の苦境から抜け出す、千載一遇のビジネスチャンスのはずである。これまで心ならずも沿線住民に高額運賃というかたちで負担させてきた2期線の建設費を、今度はスカイライナーの乗客にも負担してもらうことで、全体として、乗客に負わせる線路敷設費負担をリーズナブルな水準に抑制することができる、ようやくそのような曙光が見えてきたといえるのではないか。

 ところが、計画書をみれば、成田新高速の運行会社は北総線の線路敷設費については負担することが想定されていない、北総鉄道の側も強力に成田新高速側に負担を求める姿勢を示しているふうにもみえない。

「県民益」を守れ

 北総線の利用者が高額運賃に耐えることで建設費を負担してきた2期線の上を、成田新高速が「ただ乗り」で利用するという事態は、言い換えれば、北総線沿線に住む千葉県民が負担してきた線路上を、成田空港を利用する東京都その他の地域住民が、正当な負担をすることなく利用する状態に、千葉県民が甘んじることを意味する。

 同じ線路を使って、片やわれわれ北総線沿線住民は、高額運賃で北総鉄道が過去に敷設した線路の建設費負債を営々と払い続け、片や成田新高速鉄道を運営する事業者と乗客は、最初からこの建設費負担からフリーで利用できる。

 このような不公平、不公正が許される、何か合理的あるいは不可抗力的な理由があるのか。これまでのところ、誰もこの点について説明していない。

 折から、千葉県知事選の話題が徐々に盛り上がってきている。

 そこで、知事選に出馬を表明している候補者たちに、この問題をぶつけ、それぞれの見解をお聞きした。

 北総線の運賃問題だけにとどまらず、今回の知事選では、われらが北総地域が県内で最も重視されるべき地域として、各候補がこの地域をどう見ているかに、それぞれの見識、県知事としての資質、器量が表れるのではないだろうか。

 成田空港が今後も国際空港としての役割をきちんと果たしていけるか否かは、千葉県全体の発展戦略にとって、最大の関心事であろうし、成田空港と羽田空港を短時間で結び、両空港の連携・一体化により、ハブ空港としての機能、国際競争力を高めていけるか否かは、県というより国全体の発展戦略から、揺るがせにできない問題である。

 そして、北総線は成田新高速鉄道ルートの重要な区間として、上記の県、国の今後の発展にも大きく絡む。北総線の運賃問題、とりわけ上述してきたような成田新高速が北総線の線路敷設費をどのようにシェアしていくかといった問題が、この段階で地元が納得し、誰がみても公正なかたちで決着するのか、それとも成田新高速鉄道が走り、将来成田・羽田を結ぶ「新特急」構想が具体化していく中で、「ノドに刺さったトゲ」として、しこりを残し続けるのか。

 こうしたことに敏感で、果敢に取り組む候補者が知事になってもらうことで、北総線の運賃問題ばかりでなく、成田新高速鉄道、成田・羽田一体化等々の構想を通して、この地域全体の発展、千葉県全体のステージアップを図っていくことができるのではないか。

県知事候補たちの認識を聞く

 3月29日に実施される千葉県知事選挙に出馬を表明している5氏に対して、北総線の運賃問題、特に本紙が重視している「北総鉄道が過去に敷設し、現在償還を続けている負債について、成田新高速鉄道に適正な負担をさせること」についての見解を求め、回答を記述していただいた(質問項目は、下記のとおり)。

質問項目

@ 成田新高速鉄道が、北総鉄道が過去に敷設し、現在償還し続けている負債について、応分の負担をすべきことについて。

A 平成22年度に開業が予定されている成田新高速鉄道の運賃設定に際して、「線路敷設費用への負担額」と「維持管理費」との内訳を明確にし、沿線地域が納得できる情報開示を国および県が行うべきことについて。

B この問題の最終的な解決策として、北総線を含む成田新高速鉄道区間を、「上下分離」方式により、線路施設を公的セクターが保有し、民間鉄道事業者は線路使用料を支払って線路施設を利用する形態が望ましいとの考え方について。

千葉県知事選各候補からの回答

森田健作
@同感である。
Aぜひ検討していきたい。
Bぜひ検討していきたい。

吉田 平
@成田新高速鉄道が「応分の負担をすること」について賛同するものであります。
A成田新高速鉄道の運賃設定に際して、国及び千葉県は北総線の沿線地域が納得できる情報開示を行うべきと考えます。
B線路施設を公的セクターが保有し、線路施設を利用する民間鉄道事業者が線路使用料を支払う「上下分離」方式が望ましいと考えます。

西尾憲一
@(今は)個人として、貴団体が主張する応分負担方式に対して異論がありませんが、国民の貯蓄を使って建設中の都市再生機構にも負担させる必要があるのではと考えています。
A私西尾憲一が知事に当選したならば、貴団体が主張する情報公開は、是非実施したいと考えています。
B私西尾憲一が知事に当選したならば、貴団体が主張するような方法の運賃値下げに賛成します。上下分離方式を採用するよう必要機関に働きかけることをお約束します。

八田英之
@賛同します。利用者に耐え難い負担を強いている北総鉄道の高額運賃は莫大な建設資金を北総鉄道に押しつけてきた国と連結子会社として支配している京成電鉄に責任があります。成田新高速鉄道が京成電鉄によって運行されれば、住民が、成田空港へのアクセス向上という国策と京成電鉄の利益の犠牲にされてきたことがはっきりします。成田新高速を運営する京成電鉄が応分の費用負担をおこなうことは当然だと考えます。
A賛同します。利用者住民にたいしすべての情報を開示すること、これが大原則でなければなりません。とくに、この路線の線路使用料は、親子関係にある会社間のものであり、不透明さは否めません。十分な情報が提供されて初めて、共通の土俵ができ、内容の当否について議論をおこなうことができると考えます。
B合理的な考え方だと思います。ただしこの場合、国の責任が免罪されて沿線自治体に負担を強いることがあってはなりません。あくまでも北総の高運賃については、国と京成電鉄に第一義的な責任があり、費用負担の責任があることを、太く貫くべきだと考えます。

白石ますみ (未回答)


[15」大詰めを迎えた運賃問題

(月刊 千葉ニュータウン2009年5月9日付所載)

小手先細工ではダメ

 北総線の運賃値下げ問題に取り組んでいる千葉県および沿線自治体の調整が大詰めを迎えたといわれる。

 しかし、その内容については具体的なことは何も明らかにされず、特に沿線地域にとって最大の関心事である、北総2期線の線路敷設費について成田新高速鉄道を運行する京成電鉄にどのような負担をさせるのかが、依然として何の情報も、説明も行われていない。沿線地域としては、引き続き県主導による「調整」に重大な関心を払いながら、声を上げつづけていく以外になさそうである。

 県の説明によると、「北総鉄道が運賃値下げをした場合」の影響として、@単年度収支の減少、A累積損失の増加、B債務超過解消時期の遅延、C翌期繰越金の減少といった経営悪化要因が考えられ、これをカバーするために、京成電鉄等による「負担」、県・都市再生機構・地元市村による「支援」が必要になってくるというのが骨子である。こうした枠組みを基に、県では値下げ率を15%、10%、5%とした場合の北総鉄道の減収額などを試算している。

 第1の疑問は、「単なる試算」とはいえ、なぜ15%・・・・なのか。値下げを検討するための試算であるなら、まずは他の鉄道と北総線との運賃差が検討のための参考数値となるのではないか。別表のように、北総運賃は30%〜60%くらい下げて、ようやくつくばエクスプレスやJR、京成並みとなるのである。しかも、これは普通運賃の場合であり、定期料金となるともっとすごい格差が現れる。

 「15%」という数字から何となく連想されるのは、これによって上野〜印旛日医大間の運賃が、上野〜成田空港間のそれを上回ってしまう、いわゆる「二重運賃」は辛うじて回避されるということである。北総線区間(高砂〜印旛日医大)の現行820円が15%下がると750円になり、それによって上野〜印旛日医大間は950円となるからだ。

 しかし、北総線の沿線地域が「二重運賃」あるいは「差別運賃」という言い方で問題にしてきたのは、こういう小手先細工で済まされる話ではなく、北総線の高運賃を招いている最大要因である、二期線の線路敷設費を永遠に北総線沿線利用者だけに押しつけつづけるのでなく、すべての「受益者」が公平に負担すべきという主張なのである。

 北総線は、後続する東葉高速鉄道、つくばエキスプレスなどと比べても、当初から公的支援の枠組みがきわめて貧弱で、2期線をはじめとする線路整備費のほとんどは、この線路を利用する者が負担する「受益者負担」原則が適用されてきた。

 この事情に根本的な変更がない限り、北総線の線路を利用する、すべての「受益者」は、均等に負担すべきである。近い将来、新しい運賃が明らかになるかもしれないが、沿線地域としては上記の点をしっかりと見極めるとともに、この点についてのきちんとした情報、説明を、引き続き求めていくことが必要であろう。県、URとともに沿線自治体による「支援」は、京成の「負担」とのセットとなって、初めて正当性と効用をもつ。


[16]スジ違いの5%値下げプラン

(月刊 千葉ニュータウン2009年10月10日付所載)

「子供の使い」させられた知事・首長たち

 千葉県が沿線6市2村を巻き込んで検討を進めていた北総線の運賃引き下げプランが一応まとまり、9月18日に森田知事や沿線の首長らで京成電鉄にもっていったところ、京成側から極めてそっけない対応であしらわれたことが報じられている。

 今年半ば頃から、大手新聞の千葉版で「運賃5%値下げ」なる記事がスクープ≠ウれるようになった。しかし、こんな案ならずっと前から(少なくとも昨年秋頃には)耳にしていたし、何よりもこういうデタラメな値下げ案なるものが広まることで、長らく高運賃に悩まされてきた沿線住民の「今度こそは」という期待に水をかけ、一種の既成事実化が進むことをおそれていたら、結局その通りに事態が進行しているようだ。その意味で、大手新聞のスクープ≠ヘ、極めてお粗末なレベルでこの問題に幕引きを図り、問題の根本的解決に蓋を閉ざそうとする連中の露払い≠果たしたことになる。

県の調整案への疑問

 5%という、問題外≠フ値下げ幅もさることながら、県の調整作業は、最初から疑問符がつけられたまま、そうした疑問に一切フタをしてきたといってもよい。

 第1に、成田新高速鉄道の開業という「チャンス」に北総線の運賃値下げが検討されているのは、新高速と北総線がこのままでは「二重運賃」になるのではないかという議論から始まったことでもわかるように、沿線住民が長い間高額運賃に悩まされてきた、北総鉄道の線路の上を新高速が走るという関係性の中で議論されてきたにもかかわらず、県の調整は最初からこの関係性をワキに置いて、「まず沿線自治体からの財政支援ありき」でスタートしている。

 第2に、県はこれまで、地域の幹線交通の維持に問題が生じないよう、北総鉄道の経営基盤を強化したり、その維持に対する支援は行うが、一鉄道会社の運賃を下げさせるための財政出動は考えないとしてきた。今回の「財政支援ありき」の検討作業は、そうしたこれまでの県のスタンスとどう整合性がとれるのか。今回のような、県および沿線自治体による財政支援による運賃値下げが可能なのだったら、なぜもっと早く検討に着手しなかったのか。

 第3に、鉄道会社の運賃を下げさせるために、県や沿線自治体がお金を支援するという場合、今回のような補助のしかたは、「ザルに水を注ぐ」ようなものではないのだろうか。鉄道会社にとって、運賃収入はフローのお金であり、値下げするとこれがいくらいくら減るから、これだけ補助しましょうというのは、フローに対してフローのお金を注ぎ込むだけだから、いつまで経っても問題は解決しない。やはり公的補助は、県がこれまで主張してきたように、北総鉄道の経営基盤(ストック)を強化する方向で行われるべきではないか。

 だいたい、このような補助をいつまで続けるのか。今回のプランでは「5年間」となっているが、5年でやめられる保証がどこにあるのか。5年前に2市2村で始めた通学定期補助は、今年度で打ち切りになるはずだったのが、今回のプランでさらに6市2村まで拡大されて延長されたことを、どう総括しているのか。

なぜ北総の運賃値下げを京成に要望するのか

 県が提示し、沿線6市2村と調整してきた「5%値下げプラン」に対する主な疑問をあげてみた。しかし、疑問はプランの中身だけでなく、9月18日に県知事や首長たちが、このプランをもって京成電鉄に「要望」に行った、その行動にも向けられざるをえない。
なぜ、北総鉄道の運賃値下げを京成電鉄に要望するのか。

 北総鉄道の実質親会社は京成電鉄であり、北総が運賃を下げるも下げないも、すべての鍵は京成が握っているというのが、偽らざる実態なのだろうが、そんなこと、運賃値下げに真剣に取り組んでいると称する県や自治体の関係者が簡単に認めてしまっていいのか。

 森田知事をはじめとする沿線首長らがぞろぞろと京成電鉄の本社に出向いて要望するというスタイル、かたちを決めた時点で、もう勝負あったのではないか。

 知事や首長らの要望にも首をタテに振らない京成の首脳、子供のお使いよろしくスゴスゴと引き返す地域のリーダーたち、こういう図式を見せつけることによって、いい加減で沿線住民もあきらめてくれるだろう――自分たちのボスに赤っ恥をかかせて顧みない県の役人たちは、そんな計算でこのセレモニーを仕組んだのではないか。

 もう一つの計算として、沿線住民の怨嗟の矛先が京成電鉄に向かうこともあったかもしれない。

 しかし、知事らの要望に、京成の首脳が頷かなかったとしても、一民間会社の立場での利害得失を慎重に考慮しての判断だとしたら、それ自体誰も非難できないのではないか。

 問題は、京成の首脳が北総線区間の線路敷設費用に対する負担に対して、渋い回答しか出してこないことではなく、北総鉄道の経営者が、沿線住民に高額運賃で払わせてきた線路敷設費用への応分の負担を、この期に及んでも成田新高速の運行会社に毅然として要求しないことにある。そのことは、これまで北総鉄道が沿線住民に高額運賃を強いてきた根拠を揺るがせるものであり、さらに(不当にも)この線路敷設費用を今後とも沿線住民だけが高額運賃で負担していくことを意味するのである。

 北総鉄道が京成に対して線路敷設費用への応分の負担を求めないのは、親会社である京成がそれを許さないからだ、だから京成が一番悪いというのであれば、そうした問題は、北総鉄道の株主としての権利の主張および行使によって解決していくべきであろう。知事やら首長が、ノコノコと京成本社に出向いて頭を下げて済む話ではない。

やっぱ、やるっきゃない?「株主代表訴訟」

 県の「5%値下げプラン」にもあるではないか。「C北総鉄道の自助努力」という言葉が。

 来年の今頃は成田新高速鉄道が北総線の堀割(100メートル道路)を疾走しているだろう、この時期に北総鉄道の経営努力として、真っ先に、死にものぐるいで取り組まなければならないのは、「沿線住民に高額運賃で払わせてきた線路敷設費用への応分の負担を、成田新高速の運行会社に毅然として要求する」ことであり、これをやらない経営者に北総鉄道の役員を名乗る資格はない。

 成田新高速鉄道開通というのは、北総鉄道の長期経営にとって最大のビジネス・チャンスであり、また北総線の高規格な線路施設は、北総鉄道の商品の中で、最も「高付加価値商品」なのである。自社の最も魅力的な商品を、目の前に最大のビジネス・チャンスが訪れているというのに、真剣に「営業努力」をしない経営者には、即刻退陣してもらうほかない。

 現在の北総線運賃問題を解くカギは、県の知事室にも、京成電鉄の役員室にもなく、北総鉄道株式会社の株主だけがもっている。京成が51%のマジョリティを握っているということは、残りは県や沿線自治体が保有しており、しかもこの出資金は100%税金である。

 県や沿線自治体のリーダーたちは、京成と交渉したり、国の指導力に期待したりする前に、自らがもっている北総鉄道の株主としての権利を正当に行使すべきであり、そこから逃げたり、目を背けることは、自分たちを選び、自分たちに今の仕事を与えた住民、有権者たちへの最大の裏切りであることに気づかなければならない。


[17]こうすれば下がる こうしなければ下がらない

(月刊 千葉ニュータウン2009年12月12日付所載)

納得できない負担の継続

 北総線の運賃が、成田新高速鉄道の開業から14年度末まで、平均4・6%値下げされることが、県・沿線自治体と鉄道事業者が合意して決まった。

 値下げ合意による地元市村の負担内容は、別項のとおりだが、今回の5%弱運賃値下げ合意については、難色を示していた京成電鉄を説き伏せて、最終的に合意に至った努力を評価する見方と、値下げ幅があまりに小さいこと、公的負担が出資金(ストック)ではなく、補助金(フロー)としてのものであること、5年後がどうなるか不透明なことなど、不満の声も多い。

 評価する声にしても、今回の値下げでは全く不十分であり、今後さらに働きかけが必要で、今回はその一歩という認識では共通している。

 今回の値下げプランが、沿線地域にとって納得できないのは、「2期線(高砂〜新鎌ヶ谷間)の巨額線路敷設費が、北総沿線利用者が払う運賃だけで償還される状況が、成田新高速開通後も続く」ことであり、「同じ線路を利用するのに、北総沿線利用者には受益者負担′エ則が適用され、新高速の利用者はこの適用を逃れる」ことであり、どちらも、なぜそんなことになるのか、合理的な説明はどこからも、誰からも聞かせてもらえない――、このことにほかならない。

 こうした疑問、不満、不審は、来年夏から国道464号の堀割の中を、スカイライナーや一般特急列車がほとんどの駅を通過して疾走していく光景が毎日繰り返されるようになると、ますます募っていくだろう。

 しかし、今回値下げ案を検討した国や県の関係者にとって、説明・説得すべき相手はあくまで京成電鉄であり、問題解決のカギを握るのも、一連の交渉で絶対的な「拒否権」を持っているのも京成だったようである。北総沿線住民が納得できるかどうかは、彼らの誰も関心事に入っておらず、ほとんど意識さえしていなかったようにみえる。

 つまり、(2期線の線路敷設費をずっと負担してきた)北総沿線住民は最初から最後までカヤの外であり、端的に言ってわれわれ沿線住民が納得しようとしまいと、新高速は走る。しかし、京成を怒らせたら、新高速に走って頂けないかもしれないという意識から、今回の値下げ案は練られ、交渉され、合意されていったことになる。

 われわれが怒って、新高速の電車を止めるかもしれないという心配に、国や県が頭を悩ましたことはなかったようであり、北総沿線地域が納得できる線路使用料を京成が払うと言わない限り、京成さん、おたくに新高速を走らせるわけにはいかないのですよ、というような交渉テーマも、関係者の脳裏に浮かぶことはなかったのだ。京成が新高速を走らせることは最初から大前提となっており、この電車が走る線路の建設費を負担してきて、これからも負担していく人たちの意向、提示する条件は、最後まで検討テーマにもならなかったのである。

 考えようによっては、これは驚くべきことであり、この問題の異常性がここに現れているといえる。

 なぜかわからないが、この問題では、われわれ北総沿線地域というのは、ほとんど合理的な説明もないまま、北総鉄道が抱えている重い負債の償還をこれからも一手に引き受けていかねばならないことになっているらしい。

北総線問題解決5ヶ年計画

 このたびの5%弱値下げについては、この地域の首長も議会も住民も、これで満足はしておらず、更なる取り組みの必要性を認めている。

 ならば、今回の値下げを北総線問題解決の第1ステージ、これからの5年間、北総線問題の第2ステージと位置づけて地域全体で取り組んでいくことによってしか、上記したような不合理な状況は打破できないのではないか。

 第2ステージでは、「北総鉄道区間(高砂〜印旛日本医大間)の線路は誰が保有するべきなのか」という問いを中心に据えて、この問いに対する地域みんなが納得できる「解」を探っていくことが、この問題の最終的な解決につながるのではないか。

 北総鉄道区間のうち、2期線(高砂〜新鎌ヶ谷)の線路敷設費による巨額負債の存在が、運賃値下げができないことの最大の理由となっていた。なのに、成田新高速が通るとなっても、新高速の事業者および利用者はこの巨額負債の償還負担に束縛されず、相変わらずわれわれだけが負債償還を高運賃で負担し続ける。

 その理由は何なのか。

 そもそも、京成電鉄が最大株主である北総鉄道が2期線の線路施設を保有していることが、このような不公平、不合理を生んでいるのではないのか。

 仮に、千葉県のような公的機関がこの区間の線路施設を保有し、ここを通る北総線からも、成田新高速からも同一料金体系による線路使用料を徴収し、これを鉄道・運輸機構に償還していくというかたちであれば、なんの問題もないのである。

 千葉県は、資本金250億円の北総鉄道が1000億を超える2期線敷設による負債の償還で経営が苦しくなると「支援」を行ってきたが、「支援」などという他人事ではなく、県自ら最初からこの線路施設の建設およびその後の運営に責任をもって取り組むべきだったのである。

 それがイヤなら、京成に対して、われわれ沿線地域が負担してきたのと同様の負担をするよう要求し、京成が飲まない場合は、新高速を走らせないくらいの態度で交渉すべきである。

株主代表訴訟の現実性

 ただ、上述したように、われわれ北総沿線地域の主張など、国も県も耳を傾けてはくれない。われわれが怒ろうが、抗議しようが、来年夏になれば成田新高速は走り始めるだろうし、逆に、京成が首をタテに振らなければ5%に満たない運賃値下げさえも暗礁に乗り上げていたのだ。

 そうしたわれわれ沿線住民にとって唯一の突破口は、北総鉄道の経営者に対して、2期線の線路敷設費負担を北総線の利用者にだけでなく、成田新高速の事業者・利用者にも要求するべきだと、それをしないのは背任行為であると迫っていくこと――、これしかないと思う。

 実際には、これは北総鉄道に出資している印西市または/および白井市が北総鉄道の経営者の責任を追及する「株主代表訴訟」という形で表現される。

 小紙が最初にこの問題で「株主代表訴訟」のことを書いた時には、ほとんど誰も注目せず、相手にもしてもらえなかったが、最近になってあちこちでこの言葉を耳にするようになった。その意味では少しだけ現実味を帯びてきたのかもしれないが、しかしまだまだ具体的にこの問題を考え、詰めていく感じにはなっていない。

 印西市長や白井市長が北総鉄道の経営者を訴えて、株主代表訴訟を起こすという事態というのは大変なことであり、首長にとっても大いなる勇気と覚悟を必要とし、政治的にも大変なリスクを引き受けることになるかもしれない。

 「株主代表訴訟」をより現実的なものとしてイメージしていくには、上述した、北総線問題に取り組む「第2ステージ」(成田新高速開業から14年度末までの約5年間)を念頭に置いてタイムスケジュールを考えていくのがよいように思う。
5年間のうちには、必ず1回の首長選挙と1回の議員選挙がある。

 このうち首長選挙では、「私が当選した暁には、就任後1年以内に株主代表訴訟をやります」というマニフェストを掲げた候補者が圧倒的に有利になる、それに躊躇した候補者は圧倒的に不利になるような雰囲気、世論づくりを今から着手していくのだ。
このマニフェストは、何らかの成果を有権者に約束するのではない。一定の期間内にある行動をとることを約束するのだから、候補者が当選後公約を実行したか破ったか、誰にも明確にわかる。

 議員選挙でも同様。印西市も白井市も議員選挙が首長選挙の前年に行われる見通しだから、「株主代表訴訟」に対する各候補者の態度を明らかにして、やがて「株主代表訴訟」を公約して当選してくる首長をサポートできる議員を大量に当選させる。

 選挙に向けての世論づくりとともに、住民監査請求や住民訴訟などで首長を突き上げていくことも必要になろう。

 株主代表訴訟を起こすことも、それによって京成に巨額の線路使用料を負担させることも、本当はわれわれの真意ではないし、最終ターゲットでもない。最終的な目標は、「北総鉄道区間の線路施設は誰が保有すべきなのか」という問いを浮かび上がらせることであり、これに対する「解」を関係者に真剣に考えさせることである。

 しかし、繰り返しになるが、われわれ沿線地域の住民はそうした検討のテーブルに招かれていないし、ほとんどすべてのことはわれわれを蚊帳の外に置いて決められる。これが、「第1ステージ」の経緯を観察して、われわれが酌み取らなければならない教訓であり、そこからわれわれは、「蚊帳の外」からできることとして、以上のような「戦術」を提起する次第である。