[3]宇宙人

旧住民・新住民・宇宙人

 われわれが移り住むはるか昔から,先祖代々この地で生活している人と話していて,びっくりしたというか感心したことがある。

 われわれは彼らのことをつい“旧住民”と一からげで呼んでしまうが,彼らのなかにも自分たちを“新住民”と呼び,周りからもそう見られている人たちがたくさんいるのだという。では,“新住民”“旧住民”をどこで分けるか。

 何でも今から300年くらい前に先祖が当地に移住してきた人たちは,いまだに“新住民”と呼ばれ(自分たちもそのつもりでいる),これに対して“旧住民”というのは,800年くらい前にその先祖がここに住みついた人たちを指すのだという。

 ほんの雑談のなかで飛び出してきた話なので,どこまで信憑性があり,どの程度厳密な時間区分で言われているのか定かではないが,なかなかいい話ではないか。

 ローンだの通勤時間,あるいは子供の教育といった極めて現実的な理由で当地に住むことを選んだわれわれの前に,このような悠久ともいえる時間感覚で生活し,物事を考えてきた人たちが存在するというのは,なんとなく楽しくなる。こういう話を聞くと,散歩しながら目に入る里山や,そこに点在する農家,古ぼけた寺や社も,長くて重い歴史を引きずっているのかもしれないなどと,乏しい想像力をかきたててくれる。

 そのような時間的スケールで暮らしてきた新住民,旧住民を合わせた“彼ら”からみると,ここに移り住んできてせいぜい十数年しか経っていないわれわれは,さしずめ“宇宙人”とでも呼んでおくしかない存在らしい。

存在感の希薄な宇宙人

 新・旧の別はあっても“彼ら”は住民,われわれは宇宙人か。

 たしかにそう言われてもしかたがないかもしれない。われわれはこの地域のことを何も知らないに等しいし,生活時間の大半を(とくに男どもは)この地域の外で過ごし,ここには寝るために帰ってくるだけ,友人や知人もこの地域にはほとんどいない,会社の同僚や取引先とは愛想よくつき合うくせに,隣家のおじさんの顔もろくに知らないというのでは,存在感が薄くなるのもやむをえない。

 ニュータウンと呼ばれるところでは,多かれ少なかれどこも似たようなものなのかも知れないが,新しくここに移り住んだ人たちの多くは,行政や福祉などの面で自分たちのニーズが十分くみ上げられていないという被害者意識,疎外感を抱いている。数の上ではだんだんわれわれの方が上回ってきているのに,市政は依然として“彼ら”中心に回っているのではないか。議会の構成をみても,われわれの意見に耳を傾けてくれそうな人は見あたらない,あるいはごく少数しかいない,等々。

 しかし,そうしたことはすべてわれわれの存在感の薄さに原因があるのであり,くやしければ“宇宙人”を脱して,“住民”になるほかないだろう。議会の構成が,実際の地域の人口構成と違った結果になるのは,“宇宙人”が投票に行くことよりも家族とドライブに行く方を優先するからであり,あるいは誰に投票したら自分たちの利益を反映してくれるのかという情報をそもそももっていない(だからこそ“宇宙人”なのだ)からにほかならない。

新・新住民と呼ばれる日をめざして

 ただ,選挙のシーズンになって急に自分たちの利益を代表してくれる人を見つけようとしても,たぶんうまくいかないだろう。新・旧の“住民”たちは,日頃のつき合いのなかでさまざまな情報を日常的に交換し合っており,「今度の選挙では誰に投票すべえか」などというのは,多くの情報のなかのワン・オブ・ゼムにすぎないと思われる。 選挙もそうだが,毎秋行われる市民運動会で,とくに綱引きのようなグループ競技では,概して旧市街地区の人たちの方が成績がいいという事実は,“住民”のパワーと“宇宙人”のひ弱さという対比を否応もなく見せつけてくれる。ニュータウン地区の代表選手は,どうみても即製の混成部隊であり,呼吸も合っていない。対して,旧市街地区の人たちは,見るからにやる気満々であり,何でもこの日のためにブルドーザー相手に練習を積んできたのだという。戦う前から勝負はついている。

 道で出会っても挨拶を交わすこともない,ロクに顔も知らない者同士が,時々思い出したように「民主主義だから,数の多い方の意見が反映されるべきだ」という頭でっかちの理屈を100遍並べても現実は変わらないだろう。まず,われわれ“宇宙人”が相互に顔見知りになる,いろいろな情報を交換し合う,酒飲みやカラオケで互いに自分を見せ合い,相手の素顔を知る等々のことが必要であり,「夏祭り」,「運動会」など地域のイベントや「老人会」「子供会」等々の活動に積極的に参加することによって,基本的な人間としてのおつきあいを積み重ねていく以外にないと思う。


 果たしてわれわれが,“彼ら”から新・新住民と呼ばれる日は来るのだろうか。

「千葉ニュータウン新聞」1997年11月15日号所載