[3]消防団

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長期低落傾向にある消防団

 インターネットを覗くと、各地の消防団員がホームページを設けていて、若い消防団員の不満が率直に綴られているサイトがある。消火訓練だというから参加したら、「操法」という出初め式用のパフォーマンスの練習だったとか、本職の消防署や年輩のおじさんたちが威張っていて、若い連中の、もっと実践的な防災技術を身につけ、実際の災害現場で役に立ちたいという希望が踏みにじられてしまうなど、『踊る大捜査線』の青島刑事みたいな悩みを抱えている団員も少なくないようである。

 長い間日本の防災を末端で支えてきた消防団も、都市化や住民意識の変化により、日本の伝統的な地域社会が変貌するのと並行して、長期低落傾向にある。全国の消防団員の数は、昭和六〇年頃の約一一〇万人から現在は九五万人前後まで、一貫して減少傾向をたどっている。

 災害対策基本法生みの親といわれる自民党・野田卯一代議士は、伊勢湾台風(一九五四年)での災害対策の反省として、すでに次のような警告を発している。

 「伊勢湾台風の折、名古屋市においては、末端の組織が不充分だったため、救助活動ひとつにしても円滑になされず難渋したが、旧来の町内会等が解体された現在、こうした事態は、災害時には全国各地に現れると思われる」。

町火消し以来引き継がれてきた日本のボランティア精神

 江戸時代というのは大変洗練されたボランティア社会だったようで、岡っ引き、長屋の大家さん、寺子屋のお師匠さんなど、社会的に重要な多くの役割がボランティアによって担われていたらしい。その意味では「お上」に頼ることなく、市民が自分たちで自分たちの地域を守り、維持していくシステムが確立されていたようだが、町火消しもボランティアであり、無償で危険な作業に従事する、いなせな若い衆ということで人々から尊敬され、女にもメチャもてたらしい。

 もう一つ付け加えると、町火消しや消防団には、若者が大人になっていく課程で、一種の通過儀礼を教え込む若者宿的な、地域の教育機能もあったようである。

 そのような伝統的な社会システムが崩壊し、住民は遠く離れた都心の仕事場に通勤し、工業社会の生産活動に専念する一方、地域で必要となるさまざまな機能はすべて「行政サービス」によって賄うという、一種の分業体制が進行してきたのが、近代化のもう一つの側面だったともいえる。

災害時に最も頼りになる向こう三軒両隣

 しかし、災害時にいちばん頼りになるのは隣近所の人たちである。阪神大震災で、ボランティアが避難所の人たちに聞いたアンケート調査でも、「被災時に頼りになった」ベストスリーは、隣近所、会社、親戚という結果が出ている。一方で、自治体などの公的な組織はベストテンまで数えても名前があがらなかったという。どこの自治体でも、大規模な災害時には「首長を本部長とする災害対策本部を設置して」といったことが定められているが、阪神クラスの災害となると、自治体の職員も被災者であり、被災直後の職員の出勤率は極端に低下する。災害対策本部を機能させようにも、指揮系統がずたずたになり、立て直しには時間がかかる。

 しかし、行政機関が体制立て直しに躍起となっているこの時間帯は、被災者にとっては文字どおり生きるか死ぬかの瀬戸際である。阪神の時の生き埋め救出生存率をみると、被災1日目では75%、4人に3人は生きて救出されるが、2日目ではこれが25%、3日目は15%と、時間を追うごとに絶望的になっていく。

伝統的な自助精神を蘇らせた災害救援ボランティア

 一方で、阪神大震災ではボランティアが全国から駆けつけ、救援や避難所の人たちの支援に大活躍したことが報道された。阪神で注目された災害救援ボランティアの活躍は、そうした日本的なコミュニティの助け合い精神が新しい形でよみがえったと考えることもできる。

 本連載では、昔のコミュニティにあって、今のニュータウンや新興住宅地では姿を消してしまったものを取りあげている。昔のコミュニティに存在したものの多くはそれなりに存在理由があったのであり、だから新しい街をつくる場合でも、同じような機能を新しい形で考えていく(代替機能)必要があるのではないかというのが、基本的な問題意識である。昔の街で町火消しや消防団が果たしていた役割が、今日災害救援ボランティアという形で蘇えろうとしているのだとすれば、現代日本で代替機能が芽生えてきた希有な例ということができる。

 ニュータウンを一歩はずれた旧街区には、消防団の機材置き場があり、時々消防団員の若者が器具の点検や訓練をしている。しかし、ニュータウンに今から消防団の詰め所のようなものを作ってもおそらく誰も参加しないだろう。

 いずれ来るかもしれない災害時のためにニュータウンに住むわれわれにできることは、向こう三軒両隣日頃から仲良くすると同時に、災害救援ボランティアの活動を支援し、できれば協力・参加することだと思う。ただ、むやみに被災地に駆けつけることだけが協力・参加ではない。そうした参加は、実際には被災地の邪魔になるケースも多い。

 被災地に物ではなく、お金を送ることで、災害救援ボランティアや被災地の救援活動、復興を助け、遠くから見守るという協力・参加の方法が、実際には最も有効なのだという話を、全国的な災害救援ボランティア・ネットワークの主催者から聞いた。

「千葉ニュータウン新聞」1999年5月15日号所載