[19]踏切

事故や渋滞を引き起こす踏切

 北総・公団鉄道には、運賃がものすごく高いということのほかに、もう一つきわだった特徴がある。それは、踏切が一ヶ所も存在しないことである。

 東京近郊に住んでいるとさほど感じないが、全国的にみると、踏切がない鉄道というのはたいへん希少な存在である。山形新幹線など、新幹線のくせに奥の方へ行くとところどころに踏切があるといって、開通当初話題になったくらいである。

 踏切は、危険、迷惑、横暴である。

 〈危険〉 いまだに踏切での事故というのは、年間を通してかなりの件数発生している。

 〈迷惑〉 開かずの踏切は、渋滞の大きな原因の一つとなっている。踏切と高速道路の料金所は、渋滞(国民経済の大いなるロス)の最大原因であり、両方ともすべて撤去すべしというのが、年来の私の主張である。高速道路の料金所については日を改めて論じるとして、ここでは踏切の「迷惑性」を確認しておく。

 もっとも、開かずの踏切というのもたまには人の役に立つこともあるらしい。だいぶ前だが、船橋市内のある住宅街に空き巣に入った泥棒が、逃げる途中開かずの踏切にさしかかり、地団駄踏んで焦りまくっているうちに駆けつけた警察官に御用になるという、
ウソのような本当の話が新聞に載っていた。もちろん、これは一種のフロックみたいな話で、こういうことがあったからといって、踏切の迷惑性がエクスキューズされるものではないが。


王者の行進

 〈横暴〉
 鉄道は一九世紀から二〇世紀前半、交通の王者だった。他の交通手段が発達していなかった頃、鉄道の経営者は、数十キロ、数百キロに及ぶ、不自然に細長〜〜い土地を買い占めて、そこに線路を敷けばよかった。ところどころ道路と交差しても、そこは大名行列よろしく他の交通の一切をストップさせて、常に自分が最優先で突っ走ればよかったのである。

 だが、二〇世紀も後半になると、自動車が王者の座をとって替わり、少なくとも大都市圏では「大名行列」は許されなくなっていった。

 
交通界の「大政奉還」というか、鉄道と道路が交差するところでは、勝海舟のような人物が出てきて「まあまあ、お互い大人なんだから、も少し相手の顔も立てて・・・・」と言ったかどうか知らないが、ともあれこれまでのような「大名行列」方式(踏切)から、鉄道と道路が適当に相手の顔を立て合う「廃藩置県」方式(立体交差)に切り替わっていった。

高規格な鉄道

 千葉ニュータウン計画の初期の文書を読むと、もともとここには鉄道計画はなく、主要な交通手段としてバスが考えられていたことがわかる。「通勤輸送は、新京成線、東部鉄道野田線および国鉄成田線の各駅までバス輸送を行う」ことになっていた(*)。

 ずいぶん不便な街が計画されていたと思われるかもしれないが、考えてみると「つくば」なども、建設中の常磐新線が開通になるまでは、この街のための鉄道というのは存在しないわけで、最寄りの常磐線荒川沖駅まで相当な距離バスやマイカーを飛ばさなければならない。
都心直結型の専用鉄道が敷かれているというのは、ニュータウンと呼ばれる街にとってもなかなかたいへんなことなのである。

 千葉ニュータウンの場合は、その後北総開発鉄道が新京成線につながる形で開業し、さらにその後京成線経由で都心直結することになるが、先にみたように鉄道の「大名行列」が許されなくなったことに加え、都心と成田を結ぶ交通手段という性格から、極めて高規格な鉄道が敷かれることになった。

 北総・公団鉄道は、ニュータウン地区の大部分において深くて幅の広い溝の底部を走り、溝の縁にあたる両辺は、片側二車線の国道464号が快適な車の流れを形作っている。464号の上りと下り線を隔てている溝の幅はおよそ百メートルにおよぶので、国道は通称「
百メートル道路」と呼ばれている。

 このような
超高規格なインフラを整備しながら、それに見合う人や企業がニュータウンに居住していないことが、北総線の高運賃をはじめ、ニュータウンのさまざまな問題を引き起こしている。

 「百メートル道路」にみられるように、千葉ニュータウンは、優秀な都市計画の専門家が
高い志をもって開発してきた、全国にも例のない、クォリティの高い街なのである。踏切がない鉄道も、そのホンの一端にすぎない。

 だから、ニュータウンの事業者や地元行政には、引き続き頑張ってこの街の人口や企業をどんどん増やしていってもらう以外にない。それでないと、
なまじ高規格に作られたインフラが、重すぎる足かせとなって、この街を窒息させかねない。

 ニュータウンとして歩みを開始したこの街は、すでに後戻りはできないし、「豊かな自然」だけではやっていけないのである。

*千葉県北総開発局宅地開発課「千葉北部地区宅地造成事業計画概要」昭和四十四年一月

月刊 千葉ニュータウン(2003年9月13日付)所載